『風、薫る』見上愛×佐野晶哉の不器用な恋模様 “冷たくて、あったかかった”が伏線回収

 直美(上坂樹里)が藤田(坂口涼太郎)に伝えた提案によって、丸山(若林時英)の治療が少しずつ前に進み始めた。NHK連続テレビ小説『風、薫る』第34話は、帝都医大病院で直美(上坂樹里)が患者のために動く一方で、りん(見上愛)とシマケン(佐野晶哉)の関係にも静かな変化が見え始めた。

 丸山の患部には、1日3回薬を塗ることになる。これまで思うように治療が進まなかった状況を変えたのは、直美が藤田に働きかけていたからだ。丸山は直美に謝罪するが、直美にとって大事なのは、謝らせることではない。患者の状態をよくするために、どうすれば医師を動かせるのか。その道筋を考え、実際に行動することこそが、彼女なりの優しさであり、看護なのだろう。

 ここで見えてくるのは、直美の世渡りのうまさだ。院内では、看護婦たちはまだ十分に信用されているわけではない。意見を言っても、すぐに聞き入れてもらえる立場ではない。だから直美は、真正面からぶつかるだけでなく、相手を見ながらうまく立ち回る。丸山の隣の患者が薬を変えてほしいと訴えた時も、その声を受け止めたうえで、藤田に持ちかける。看護婦としてできることが限られている中で、どうすれば患者の声を医師に届けられるのかを考えて動いている。その器用さが、いかにも直美らしい。

 一方、りんは休日にも気持ちが晴れないまま瑞穂屋へ向かう。卯三郎(坂東彌十郎)や勝(片岡鶴太郎)たちにも帝都医大病院でのことを相談し、帰宅したところで玄関と戸を直しているシマケンと再会。シマケンはすでに一ノ瀬家にもなじんでいて、安(早坂美海)や環(英茉)とも自然に言葉を交わしているし、以前よりもシマケンの素性も明かしてくれるようにもなった。

 だが、りんはシマケンの様子に違和感を覚える。「なんか無理してるんじゃありませんか?」とシマケンの額に手を当てるあたりは、さすがの観察眼だ。患者だけでなく、目の前にいる人の小さな変化に気づく。“observe”という言葉に向き合っていたりんが、ここでは自然にそれを実践しているようにも見えた。さらにその手は、かつてシマケンが語っていた「冷たくて、あったかかった」手にも重なる。熱を出した幼いシマケンを安心させた看病の手。その記憶が、今度はりんの手によって呼び起こされているようでもあった。

 けれどシマケンは、無理して頑張らなければいけないと口にする。この間、トンビを飛ばしてみたが、兄のようにはうまく飛ばなかったという。何者かになりたい。けれど、思うようには届かない。そんなシマケンのもどかしさは、りんにもよくわかるものだったはずだ。りんもまた、看護婦として理想の自分にすぐなれるわけではない。目の前の現実にぶつかりながら、自分の未熟さを思い知らされている。だからこそ、2人の会話には不思議な近さがあった。前向きな言葉だけで励まし合うのではない。うまくいかないことを、お互いにわかっている。無理をしなければならない時があることも、頑張っても届かない瞬間があることも知っている。りんの励まし方は、決して明るく背中を押すようなものではない。けれど、その少し後ろ向きな言葉が、今のシマケンにはかえって届いたのかもしれない。

 最後に、シマケンも交えて一ノ瀬家でカレーライスを食べる場面は、見ていて微笑ましい。放送後には、りんとシマケンの恋模様の行方に注目する声も多く見られたが、まだはっきりと恋が動き出したわけではないものの、りんとの距離は少しずつ近づいている。けれど、あと一歩が遠い。そのもどかしさも含めて、2人の関係を見守りたくなる場面だった。

 一方で、穏やかな食卓の余韻を残したあとに映し出されるのが、千佳子(仲間由紀恵)の怪しげな後ろ姿だ。今はまだその正体も、りんに何をもたらす存在なのかもはっきりしない。だが、この先のりんに大きな影響を与える人物であることは間違いなさそうだ。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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