『風、薫る』“正しくない”主人公たちだから描ける看護 “道徳ドラマ”にはしない挑戦的試み
すったもんだの末、仙太郎は多江が学校で学ぶことを許す。ここがまた駆け足であっけないのはさておく。冒頭に挙げた台詞は、そのときのものだ。衰弱して寝ている多江に向けてネガティブな話をする父に、「療養中の患者の横でそんな話はやめてください」と多江はたしなめる。バーンズの教育の成果か、あるいは自身が病に倒れて実感したのか、患者ファーストが自然と身についていた。
「看護婦にはたいした仕事はできません」
「医者なんかにやらせてあげられない仕事です」
看護婦を医者の補助(夫における妻のようなもの)としか思っていない(当時は看護は下賤な仕事とされていた)父に多江は、それでも患者を観察し丁寧に繊細に気を配ることで、医者の治療の精度も上がると主張する。あえて「医者なんかに」というけんか腰な言い方をすることで看護婦の誇りを強調。多江の負けん気の強さが発揮された。
多江のみならず、りんと直美ほか7人の思いも同じであっただろう。
看護婦は自分が感染しないように細心の注意をはらわないといけないという重要なことも描かれた。自分が感染してしまったら、患者を看ることができなくなってしまう。看護婦は家族など、数少ない患者のために存在するのではなく、不特定多数の患者のために存在する。
その自覚をもつことが求められる。そう思うと信右衛門(北村一輝)がりんに伝染らないように自分を隔離したことは極めて適切だったのだろう。現代においても、風邪を引いたとき、自分が頑張っているという自己満足のために学校や職場に出てくる人がいて、その結果、他者に伝染してしまう。他者に感染させないため休むことは、コロナ禍を経てだいぶ浸透した。まずみんなのためを考える。看護婦でなくても重要なことだ。でも、ここをメインに持ってきても道徳ドラマのようでおもしろみはないだろう。
だからこそ、間違えてばかりで、失言が多いりん、正しいことが嫌いな屈折した直美、「医者なんかに」などと口の悪い多江と、従来の正しさや真面目さが薄めてある。しかも「不潔」。なかなか挑戦的だ。
第7週からは病院で本格的に看護がはじまる。正統派からはずれた主人公たちがどんな振る舞いをするか見守っていきたい。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK