飯豊まりえの“最強”と堀田真由の“最恐” 『泉京香は黙らない』の面白さに“舌なめずり”
京香に宿る、編集者としてのプライド。ミカが描く会話劇に虜になっていた京香だったが、それは誰かの声を奪って書いているだけに過ぎなかった。ミカの原稿から漫画のアンバランスさに違和感を覚えていた露伴受け売りの言葉をそのままミカにぶつける京香に笑ってしまう(シリーズを通して京香のキャラクター性が築き上げられてきたからこそ成立している)ものの、「そんなのこれっぽっちも本物の表現じゃない。あなたがやってるのは、ただのコピペです」というセリフは京香自身から発せられた言葉だ。京香が“四次元ポケット”の如き、小さなポシェットから取り出したICレコーダー。新聞記者として数千人の声を取材してきたという勘助のレコーダーを取り込ませることで、ミカは声の上限に達し、拒絶反応を起こして自ら舌を噛みちぎる。あくまで京香は担当編集として、漫画家のミカを正したかった。助けに来た勘助に手を引かれながらも、ミカの安否を気遣う姿は露伴とは異なる優しさかもしれない。
ミカを演じる堀田真由の怪演も凄まじい。黄金に輝く鼻輪に、牛タンを食べ続けるという不気味な能力の“サイン”に始まり、京香が目撃する仕事場での原稿執筆の場面でそこまでの違和感が一気に恐怖へと変わる。原稿を舐め回す薄気味悪い執筆方法はもちろんだが、男性や子供、老婦人といったその声にあわせてコロコロと表情や姿勢を変える芝居、そして京香に対してジリジリと高圧的に追い詰めていく姿――最高の漫画を描くためであれば殺人でさえ犯してしまう、その狂気性や捻じ曲がった正当性に荒木飛呂彦が描く悪役を見た気がした。
特筆すべきは、ミカがレコーダーを取り込み苦しむ際の堀田の演技。好奇心からベロベロとレコーダーを舐めた挙句、ミカは声の過剰摂取を起こし、舌を噛み切った後に、もう一度口の中に舌を取り戻し、その場に倒れる。聞こえてくる声にならない声は編集上の演出だが、顔を真っ赤にしながら舌を噛み切り、再生し微かな笑みを浮かべる、堀田の迫真の演技なくしてこの恐怖のクライマックスは成立しないだろう。前情報なしにこのシーンだけを観て、これが堀田真由だと分かる人はほとんどいないと思うような、堀田自身としても新たな扉を開いた役になっているのは間違いない。舌を見せずに話し無表情に徹した奏士を演じる寛一郎の芝居も素晴らしかった。
エピローグはシリーズお馴染み、オープンテラスカフェでの京香と露伴の会話。“舌切り漫画家”と報道されたミカと奏士から、話題は京香の彼氏・勘助へ。「君のことは好きだったけど、もうついていけないや」と別れを告げられたことを明かした京香に、露伴は不敵な高笑いを見せる。そして、京香は「そんなことより」と満面の笑みを浮かべながら、SNSで見つけたという新たな漫画家を露伴にお勧めするのだ。ミカに舌を奪われ支配されていたかもしれない、あれほどの恐怖の体験をしながら、何事もなかったかのようにあっけらかんといつもの日常に戻ることができる。それが京香の強さであり、露伴も一目を置く黄金の精神。それを7年の月日で築き上げ、主人公としても成立するほどに成長させてきたのが飯豊自身でもある。
『懺悔室』に続く『岸辺露伴は動かない』の本シリーズを心待ちにしているのは当然のこと、今回の『泉京香は黙らない』 の成功によって、『泉京香は黙らない』 シリーズとしての第2弾も期待せずにはいられない。『泉京香は黙らない』シリーズでは5月との座組となっていくのか、そこにはどんな映像手法が取り込まれているのか。早くも舌なめずりしている。
■配信情報
『泉京香は黙らない』
NHK ONEにて見逃し配信中
※ドラマ『岸辺露伴は動かない』シリーズ過去作はNHKオンデマンドで配信中
出演:飯豊まりえ、堀田真由、寛一郎、橋本淳、高橋一生
原作・脚本協力:荒木飛呂彦
音楽:菊地成孔/新音楽制作工房
人物デザイン監修:柘植伊佐夫
脚本・演出:関友太郎・平瀬謙太朗
制作統括:小川康之、土橋圭介、ハンサングン
制作:NHKエンタープライズ
制作・著作:NHK、ピクス
写真提供=NHK