なぜ“食”をテーマにした作品が急増? “代理満足”が鍵を握るグルメドラマの魅力

 「あー、お腹がすいた!」と観終わった後に空腹を覚える作品が増えている。特に、今期は“食”が重要な役割を果たしているドラマが豊富だ。2009年に小林薫主演でドラマ化されて以来、人気シリーズとなり、今秋7年ぶりに復活する『深夜食堂』(MBS・TBS)と、2012年に放送開始され、今期よりシーズン11に突入した松重豊主演の『孤独のグルメ』(テレ東系)が元祖といわれる食べ物ドラマの魅力とは、一体何なのだろうか。

『孤独のグルメ』が生んだ“聖地巡礼”という楽しみ方

ドラマ24『孤独のグルメ Season11』©︎テレビ東京

 『孤独のグルメ』は久住昌之と谷口ジローによる同名漫画を原作に、輸入雑貨商を営む主人公・井之頭五郎(松重豊)が営業先で見つけた食事処にふらりと立ち寄り、食べたいと思ったものを自由に食す姿を描いたグルメドラマの代名詞的存在。その最大の特徴は原作漫画には登場しない実在の飲食店が舞台となっており、長年にわたってグルメや旅情報を届けてきたテレビ東京のリサーチ力が活きている。ファンの間では聖地巡礼し、五郎と同じメニューを頼んで同じセリフを心の中で呟くごっこあそびも人気だ。公式から巡礼ガイドブックも発売されており、情報番組としての側面も大きいと言えるだろう。

ドラマ24『孤独のグルメ Season11』©︎テレビ東京

 ただ、ドラマは深夜に放送されているため、もちろんすぐにはお店に足を運ぶことはできない。ちょうどお腹が空いてくる時間帯に、おいしそうな料理と五郎の食べっぷりを見せられて、生殺し気分を味わった人も多いのではないか。一時期、観る人の食欲を刺激する行為を言い表す言葉として「飯テロ」が多用されていたが、近年は、テロという言葉を軽々しく使うべきではないという意識が広まり、使用される機会はどんどん少なくなっている。一方で、そのワードが生まれるほど、食べたいのに食べられない状況は人間にとって本来は苦痛以外の何ものでもない。

 にもかかわらず、人々が基本的に食事をするのが憚れる深夜帯に放送されるグルメドラマを好むのは、誰かが食べている姿を観るだけで満たされる部分があるからだろう。心理学の用語ではこれを「代理満足」といい、韓国発祥のモッパン(食事風景を配信する動画)が人気を集める理由の一つだ。なかには、ダイエット中に見て満足感を得ようとする人もいるとのこと。自分ができないことを他人がやっているのを観てスッキリするという点においては、不倫や復讐系のドラマと近しい部分もあるのかもしれない。

『深夜食堂』©安倍夜郎「深夜食堂」/小学館ビッグコミックオリジナル©安倍夜郎・小学館/「深夜食堂 6」製作委員会

 かたや『深夜食堂』は主人公が食堂の店主ということもあり、料理が出来上がる過程を楽しむドラマでもあった。吹き替えなしで調理シーンに挑む小林の手慣れた包丁さばきや、食材と向き合う渋い横顔に思わずうっとりする。料理の出来栄えはもちろんのこと、それが出来上がるまでの工程に美しさを見出すのはある種、日本的といえるかもしれない。

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