『風、薫る』りん×直美は『虎に翼』寅子×よねに似ている? 見上愛&上坂樹里が好演
一方、直美はクレバーで逞ましい女性だ。どんな困難にも負けじと立ち向かい、一人で生き抜くだけの力を持っている。だが、彼女の場合はそうならざるを得なかったのだ。女郎だった母親に生後間もなく捨てられ、孤児を保護する教会を転々としてきた直美。世の中の不条理を嫌というほど分かっており、ゆえに誰にも期待せず、生きるためならどんなことでもやる。人を欺くことも厭わないし、気に入らない奴には英語で罵声を浴びせるが、不思議と浅ましく映らないのは、上坂の佇まいに高潔さが滲み出ているからだろう。
初登場時、通りすがりの女学生たちにつぎはぎだらけの着物を笑われ、「いかにも私がみなしごで耶蘇の貧乏女、大家直美ですが」と言い返すシーンが印象的だった。みなしご、耶蘇、貧乏女……どれも生まれてこの方、直美が何度も浴びせられてきた言葉に違いない。どんなに良い人間になろうと属性だけで揶揄され、差別される。だったら何も遠慮せず、とことんずる賢く生きてやろうと思ったのではないだろうか。でも路頭に迷っている人、特に子どものことが絡むと自分の幼少期と重なって助けずにはいられない。また、海軍中尉かと思いきや詐欺師だった小日向あらため寛太(藤原季節)にまんまと騙され、涙する直美には純粋さも残っているのだと感じた。
上坂はそのキャラクターの中で相反する2つの気持ちを演技に両立させる。『生理のおじさんとその娘』(NHK総合)では、男手一つで育ててくれた父親への感謝と「自分のことは自分で決めさせてほしい」という反発心、『ビリオン×スクール』(フジテレビ系)では、自分をいじめたクラスメイトを許せない感情と憎しみに打ち勝とうとする気持ちを、巧みに表現していた。本作でも、正しく生きられないなら、正しくなく生きてやろうとしながらも、最後の最後で清い心を捨てられない直美の葛藤を鮮やかに映し出している。
本作は、そんな2人がバディとなっていく物語だ。てっきりしっかり者の直美が少し頼りないりんをリードしていく流れになるかと思いきや、実際は逆なのかもしれない。実はこうと決めたら曲げない頑固なりんの笑顔に押されて、直美が「仕方ないな」と呆れながらついていく未来が見える。どことなく『虎に翼』(NHK総合)の寅子(伊藤沙莉)とよね(土居志央梨)の関係を彷彿とさせる2人だ。展開にスピード感こそあるものの、盛り上がりが少し遅い印象も受ける本作だが、ここから物語がどんどん面白くなっていく“追い風”を感じる。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK