Netflix『HUMINT』ラストの銃撃戦は必見 リュ・スンワン監督ならではの心理描写に

 Netflixで配信開始された話題の映画『HUMINT/ヒューミント』。題名となっている「ヒューミント」(Humint)は、「ヒューマン・インテリジェンス」(human intelligence)に由来する言葉だ。人間を媒介として情報を収集する活動のことを言う。辞書的な定義はそのとおりだが、この映画のなかでこの語は、諜報活動における「情報源となる人間」「情報提供者」の意味でも用いられているようだ。

 というわけでスパイ映画である。明朗な作品というよりは、闇を活かした撮影のおかげもあり、ノワール風のダークな味わいになっている。監督は『ベテラン』(2015年)『密輸1970』(2023年)などで知られ、いまや韓国娯楽映画を代表する監督であるリュ・スンワン。本作を『ベルリンファイル』(2013年)『モガディシュ 脱出までの14日間』(2021年)に続く、リュ・スンワンの「海外ロケ3部作」に数える人もいる。物語の大半は極東ロシア地域のウラジオストクが舞台(ロケ地はラトビア)。主人公、韓国・国家情報院の諜報員であるチョ課長を演じるのは、『モガディシュ』『密輸1970』に続き、リュ・スンワンと3度目の顔合わせとなったチョ・インソンだ。

 物語は東南アジアのとある町で始まる。チョ課長は売春宿で、北朝鮮出身の女性、スリンと接触。北からの薬物流入ルートを探るのが任務だったが、スリンの話から、ロシアン・マフィアが北朝鮮の女性を拉致して人身売買を行なっていること、これにウラジオストクにある北朝鮮の公館が関わっている疑いがあることを知る。

 しかしスリンが取り乱したことで用心棒たちがなだれこみ、チョ課長は秘密支部にいる上司から無線で撤退を命じられる。いったん命令に従うチョ課長だが、暴力を振るわれるスリンの姿を見て引き返す。何しろチョ課長役のチョ・インソンといえば、ドラマ『ムービング』(2023年)で最もスーパーヒーロー然としていた、あのカッコいいキム・ドゥシクなのだ。こんな残酷な光景を見過ごせるわけがない。チョ課長の大立ち回りが始まる。アクション演出に定評のある、リュ・スンワンならではの見ごたえある場面だ。

 チョ課長は無事スリンを連れて脱出するが、懸命の救命活動の甲斐なくスリンは亡くなる。打ちひしがれた思いを胸に、チョ課長はイム代理(チョン・ユジン)とともにウラジオストクへ。北朝鮮系のレストランで働く女性、チェ・ソナ(シン・セギョン)に近づき、彼女を「ヒューミント」にして情報を収集しはじめる。

 その数カ月後、北朝鮮・国家保衛省の腕利き諜報員、パク・ゴン(パク・ジョンミン)がウラジオストクへやって来る。総領事、ファン・チソン(パク・ヘジュン)の不審な動きを監視するのが目的だった。チソンはソナが南と通じていることに気づき、ソナとゴンがかつて婚約していたことを利用して、ふたりともを消してしまおうと画策する。ソナを必死に救おうとするゴン。そしてチョ課長も、スリンの悲劇を繰り返すまいと、決死の覚悟でソナ救出に向かう——! 

 チョ課長はロングコートに、パク・ゴンはボア付きの革ジャンに身を包む。ウラジオストクは氷のように凍てつく街だ。覚醒剤が北朝鮮では「氷毒(ピンドゥ)」と呼ばれているというのも、この映画のなかでは、ウラジオストクに潜む毒という意味を負わされているのかもしれない。人をもっぱら情報として扱う、氷のように冷たい諜報活動に携わりながら、チョ課長は「ヒューミント」を、「インテリジェンス(情報)」ではなく「ヒューマン」と見なし、その命を救おうとする。凍てつく街でもうひとり、パク・ゴンもまた、人間らしい熱に突き動かされ、実らなかった愛の火を再び灯す。

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