『風、薫る』ミセスの主題歌はなぜ刺さる? “風の視点”で生命の営みを見つめる楽曲性

 『風、薫る』の制作統括・松園武大氏は、ミセスの楽曲について以下のように語っている(※)。

「みずみずしい生命力に満ちたボーカルと演奏。傷ついた人、孤独を感じる人たちの隣にたたずみ、ふと手を重ねるような歌詞。多彩で多面的な楽曲を次々と世に送り、その根底には“命”を見つめる等身大の眼差しがある」

 ミセスといえば、前向きでポジティブな曲を歌っているイメージを持たれがちだが、一つひとつの歌詞に目を向けると決してそうではないことが分かる。愛すること、生きることの痛みや苦しみを掬い上げながらも、やがては生の肯定へと集約されていく印象だ。今回の主題歌「風と町」も、序盤の歌詞には〈いつか馴染みあるこの景色が遷り変わるように/あなたが残した香りを懐かしむように〉〈苦手なものが平気になってさ/ちょっぴり寂しさを知る〉といったように、ほんのりと切なさが横たわっている。変わっていく町、変わっていく自分。あらゆるものが変化していく中で、普遍的なものとして歌詞に存在しているのが「風」だ。〈泣きたくなる日があることも風はただ知っている〉〈思い返す大切な日々を風はただ知っている〉と、〈風はただ知っている〉というフレーズがリフレインする。

 いつの時代も、どの場所でも、何があろうと変わらずに吹き続ける風。これは、そんな風の視点で生命の営みを見つめる楽曲ではなかろうか。風に誘われてどこかの町で誰かと誰かが出会い結ばれて、その奇跡の愛で生まれてくる命の尊さを、この楽曲からは感じずにいられない。

 『風、薫る』の第1週は、主人公の一ノ瀬りん(見上愛)が暮らす村で当時まだ治療法が確立されていなかったコレラが蔓延し、彼女の父である信右衛門(北村一輝)も感染するというハードな内容だった。感染への恐怖が社会の分断を生み、人と人との絆が脆くも崩れ去っていく。その光景を目の当たりにし、コロナ禍を思い出した人も多いのではないか。そんな時でさえも風は吹き、隔離された小屋の中で信右衛門はその音を静かに聞いていた。

「死にかけているというのに、風をこの頬に受けたいと思う。私は、まだまだ生きたいようだ」

 生への渇望を吐露した直後、信右衛門は息絶える。人は命を終えた後、風になるのかもしれない。そして誰かの生命の営みを見つめる側になるのだろう。その時までは、風に乗って大空を飛びたい。頬を撫でる風のように、ミセスの『風、薫る』は優しくも力強く「生きろ」と私たちに語りかける。

参照
https://realsound.jp/movie/2026/02/post-2302316.html

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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