『ばけばけ』“他愛もない会話”がなぜ心に残ったのか 失うものこそ多い世界に与えたもの

 ヘブンはこの世を去り、彼の大きな愛だけが残った。その後回顧録という課題と向き合うトキを描いた2日間もまた、これまでの集大成と言える。自責の念に駆られたトキは回顧録として丈に思い出話を語り始めるがどうやっても暗くなる。それでもただそばにいて聞き続ける母・フミ(池脇千鶴)らの姿は、熊本での「呪われた女性」イセ(芋生悠)の不幸な身の上をただ聞き続けるトキたちの姿に重なる。思えばこの「奇をてらわずありのまま、思いのままを話そうとする人に対して、聞く側もまたそれを否定しない」ことを徹底した作風が、本作の良さである「他愛もなさ」に繋がっていたのだろう。

 いつも怪談を通してこの世に対する「ウラメシ」さを、この世界の「寂しさ」を物語っていたトキは、自身のヘブンに対する自責の念を「ウラメシ」さと共に語り続ける。でもそれは「フロックコート」と「フロッグコート」の言い間違いに気づいて皆で泣き笑うまでの話。恨めしい感情は、「他愛もない、ほんに他愛もない、スバラシな毎日」を愛おしく思う感情に変わる。これは「怪談」が得意なトキが、「怪談/KWAIDAN」のその先で『思ひ出の記』に辿りつくまでの物語だ。そしてこれからも、失うものこそ多いこの世界の中で、何より失いたくない大切な人の隣を歩く幸せを思うたび、私たち視聴者は『ばけばけ』を、トキとヘブンを、「ウシミツトキ」の物語を、思い出すに違いない。

■配信情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHKオンデマンド、NHK ONEにて配信中
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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