吉田恵里香はなぜ山田よねを主役に据えたのか 『山田轟法律事務所』に込めた切実な“怒り”
また、終戦直後の混乱期を舞台に選んだのは、主人公・寅子の視点からはこぼれ落ちてしまう社会の暗部を描くためだった。
「寅子の人生からは描けなかった、生活のために体を売らざるを得ない女性たちの問題など、憲法14条をテーマにした作品で取りこぼしていたものをどれだけ入れられるかは自分に課した課題でした。当時のいわゆるパンパンと呼ばれていた女性たちを描くときに、強く世の中を生きたカッコいい女性としてポジティブにコーティングして、苦い部分を見せない描き方はしたくなかった。社会的な問題が軽く扱われることに手を貸したくなかったので、誠実にリサーチをして書きました」
重厚なテーマを扱いながらも、劇中には寅子が妄想として登場するなど、ユーモアも忘れない。そこには吉田ならではのエンタメへの信念がある。
「私は1ある知識を100にする物語よりも、みんなが知らなかったことが0から1になって興味を持ってくれる物語になるのが理想なんです。関心を持ってもらうためには、エモーショナルになりそうなところこそ、笑いや透かしがあることが大事。よねだけだとユーモアが作れないんだなと書いていてすごく思ったので、あの“ウザい”トラちゃんのシーンは書けてすごく楽しかったです」
さらに、よねを演じる土居志央梨の熱演が、吉田の脚本に対するイメージをさらに進化させたという。
「本編の執筆時は、よねってもう少し体温が低くて冷たいイメージだったんです。でも完成した映像を観たら、最初からすごく熱があるなと。這いつくばって歯を食いしばって生きてきた泥臭さがすごく出ていて影響を受けました。別れのシーンで、土居さんが堪えきれずに涙を流されたのを見て、よねは別に涙を流すことをゴールにしてはいけないんだなと気づかされました。怒りのフルスロットルをずっとやってくれたからこそできたスピンオフだと思います」
最後に吉田は、今の時代にこの作品を届ける意義をこう語った。
「本当に今って辛いことがたくさんある世の中で、平和や平等がだんだん遠のいていくような感覚があります。だからこそ、今は抗ったり踏ん張ったりしなきゃいけない。エンタメでできる力を私は信じているので、今しんどい思いをしている人に寄り添えたり、何か声を上げる力になれたらいいなと思っています」
■放送情報
虎に翼スピンオフ『山田轟法律事務所』
NHK総合にて、3月20日(金・祝)21:45~22:57放送(72分・全1回)
BS4Kにて、3月29日(日)16:45~17:57放送
NHK ONE(新NHKプラス)にて同時・見逃し配信予定
出演:土居志央梨、戸塚純貴、平山祐介、秋元才加、森迫永依、呉城久美、絃瀬聡一、細井じゅん、北代高士、鈴木拓、大谷亮介、伊藤沙莉 ほか
作:吉田恵里香
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
語り:尾野真千子
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和(NHKエンタープライズ)、石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎(NHKエンタープライズ)
写真提供=NHK