『虎に翼』“もうひとりの主人公”よねの怒りは現代の代弁 『山田轟法律事務所』を描く信念
山田よね(土居志央梨)が、大股で前のめりにズンズン歩く。なにかに追い立てられているかのように歩く。よねは怒っているからだ。誰も幸せにならない戦争を始め、常に誰かを差別せずにいられない、どうしようもなくクソな人間たちと、この世の中に。気持ちばかり焦り憤ってズンズン歩くが、自分自身の無力さを思い知らされてばかりで、おのずとその歩幅は大きくなり、歩く速度は上がっていく。
2024年に放送され、早くも伝説になりつつあるNHK連続テレビ小説『虎に翼』。そのドラマにおける「もうひとりの主人公」ともいえる存在だった、山田よねを描いたスピンオフ『山田轟法律事務所』が放送された。本編では描かれなかった終戦直後の彼女の、苦しみぬきながらも決して戦いをやめない気高い姿が描かれている。
ドラマが始まり、空襲で死んだと思っていたバー灯台のマスター・増野(平山祐介)が生きていたことに、まず驚く。とはいえ、ほぼ寝たきりで下の世話もよねに頼らないといけない状態だ。だが、もし彼が空襲の時点で命を落としていたら、よねはあんなにも強く生きていけただろうか。マスターは、死の前夜にこんな言葉を言い遺す。
「決して自分を曲げるな。今まで通り、怒り続けるよねちゃんでいるんだ。君の正義を信じて、正しく怒るんだよ。正しく不機嫌でいるんだ」
本編の主人公・寅子(伊藤沙莉)にも通じる、「決して自分を曲げず、自分の信じる正義のために声を挙げ、戦い続ける姿勢」を観ていると、ある映画の女性キャラを思い出す。それは、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年)の女戦士・フュリオサ(シャーリーズ・セロン)である。唐突に感じるかもしれないが、本作の脚本・吉田恵里香も、このフュリオサを引き合いに出すことがある(※)。
『山田轟法律事務所』で描かれる終戦直後の日本と、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』で描かれる世紀末の世界は、程度の差こそあれ、その無秩序な世界観がよく似ている。秩序がなくなったとき、真っ先に犠牲になるのは弱い人間たちだ。彼女たちは、弱い人間を救うために戦う。
フュリオサは、独裁者の子を産むためだけに捕らえられている女性たちを、連れて逃げる。彼女たちを守るため、追手とも戦う。フュリオサもよねも、性別やルッキズムを超越した美しさがある。生きざまの美しさ、人間としての美しさ、そして、信念の美しさがある。