『ばけばけ』ヘブンの怪談が実物に? 小泉八雲『夜想絵物語』は朝ドラファン必携の書
『雪女』は『耳なし芳一』に次ぐ有名かつ人気の作品。ある吹雪の夜、遭難しかけた老人と若者の前に、ぞくりとするほど美しい雪女が現れる。若者だけが生かされるが、そのためにはある約束を守らなくてはならなかった。数年後、若者の前に雪という女性が現れ、ふたりは幸せな結婚生活を送るが……。透明感あふれる女性像に定評のある水溜鳥による美しい青年と雪女が少女漫画のようで、ちょっぴりこわいラブストーリーとなった。
「ろくろ首」と聞くと、首が長くのびた妖怪を思い出す人が少なくないだろう。だが八雲の『ろくろ首』はそれとは一味違う。出家した武士・磯貝武連は「回龍」という名で僧侶となり、諸国を行脚している。ある夜、泊めてもらった家の家族の首が宙を飛んでいて……。人と人外の和風創作を得意としている奇鳥の絵は余白の美があり、その余白が人間であれ人外であれ豊かに見せる。首の長いユーモラスなイメージを覆される物語は武士の誇りをもっていた主人公が武士でなくなったその後の話で、『ばけばけ』の松野家を思い起こす読者もいるかもしれない。トキの育った松野家も文明開化でアイデンティティを失くした家族だった。
『幽霊滝の伝説』は女性たちが仕事の合間に怪談を語り合うなかでの恐怖体験。ある日、肝試し的なことを行うことになった主人公は、赤ん坊を背負って、深夜、幽霊滝まで賽銭箱を取りに向かう……。イラストレーターはさわ。『ばけばけ』にもサワ(円井わん)という人物がいたので親近感がわく。序盤のほっこりした女性たちのイラストが深夜の滝に向かうにつれてダークトーンになっていき、やがて迎えるオチは背筋が凍るものだった。
どの作品も、単なる脅かし的なものではなく、物語が描かれた由来を想像すると、そこには人間の哀れさや悲しさが塗り込められている。手がけたのが主としてSNSで注目され多くのフォロワーを持つイラストレーターたちというのが極めて令和的なチョイスである。明治の時代、消えかかった日本の伝承を小泉八雲が文字で現世に繋ぎ止めたことで長きにわたって読みつがれ愛された日本の怪談を、今度は令和のイラストレーターたちの新鮮な感覚で、まさにリブートしたといえるだろう。
判型が正方形に近い形で手にとりやすく、カバーの下の装丁も凝っている。プレゼントにもいい絵本だ。
小泉八雲の怪談はまだまだあるのでシリーズが続くことが楽しみだ。できればドラマで語られた『鳥取の布団』もぜひシリーズに加えてほしい。
■書籍情報
『シリーズ〈夜想絵物語〉』第2弾
『夜想絵物語 ろくろ首』
発売中
著者:小泉八雲(翻訳:田部隆次)
イラスト:奇烏
定価:2,200円(税込)
仕様:B5 判変形・横綴じ/上製あじろ/76P
ISBN:978-4-86791-074-0
発行:株式会社トゥーヴァージンズ
『夜想絵物語 幽霊滝の伝説』
発売中
著者:小泉八雲(翻訳:田部隆次)
イラスト:さわ
定価:2,200円(税込)
仕様:B5 判変形・横綴じ/上製あじろ/48P
ISBN:978-4-86791-075-7
発行:株式会社トゥーヴァージンズ
『シリーズ〈夜想絵物語〉』第1弾
『夜想絵物語 耳なし芳一』
発売中
著者:小泉八雲(翻訳:戸川明三)
イラスト:おく
定価:2,200 円(税込)
仕様:B5 判変形・横綴じ/上製あじろ/64P
ISBN:978-4-86791-072-6
発行:株式会社トゥーヴァージンズ
『夜想絵物語 雪女』
発売中
著者:小泉八雲(翻訳:田部隆次)
イラスト:水溜鳥
定価:2,200円(税込)
仕様:B5 判変形・横綴じ/上製あじろ/64P
ISBN:978-4-86791-073-3
発行:株式会社トゥーヴァージンズ
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