『ばけばけ』ヘブンの怪談が実物に? 小泉八雲『夜想絵物語』は朝ドラファン必携の書

 朝ドラこと連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK総合)の主人公トキ(髙石あかり)の夫ヘブン(トミー・バストウ)のモデルは、ラフカディオ・ハーンこと小泉八雲。『怪談』や『知られぬ日本の面影』を描いた明治の作家。『ばけばけ』の第1話はトキがヘブンに怪談を語るところからはじまった。その怪談は『耳なし芳一』。小泉八雲といえばまっさきに思い浮かぶ『怪談』の有名な1作だ。

 明治時代、アメリカから日本に来た八雲(ハーン)は、西洋化され消えかかっている古き良き日本の文化に魅了されて、それを残すことに尽力した。そのひとつが怪談だった。

 日本に古くから伝わる怪談を集め、自分なりの解釈を加えた「再話」形式。いまでいうリメイクで、人々が口頭で語り継いでいたものを文字にすることでよりたくさんの人たちに伝えることを可能にした偉業。これを手伝ったのが妻のセツ(トキのモデル)である。日本語が得意ではない八雲に代わって、彼女が知る怪談を八雲に語り聞かせた。セツがいなければ『怪談』は誕生しなかったかもしれない。

 『ばけばけ』ではそんなセツとヘブンをモデルにしたトキとヘブンの二人三脚、仲睦まじい日々が描かれた。最終週直前の第24週でいよいよヘブンが『怪談』の執筆をはじめる。第1話から今か今かと待ちわびていた視聴者たちはさぞ盛り上がることだろう。

 『シリーズ〈夜想絵物語(やそうえものがたり)〉』(トゥーヴァージンズ)では、小泉八雲の名作怪談に現代の人気イラストレーターが絵をつけている。現在、『耳なし芳一』(イラストレーター:おく)、『雪女』(イラストレーター:水溜鳥)、『ろくろ首』(イラストレーター:奇鳥)、『幽霊滝の伝説』(イラストレーター:さわ)が発売されている。

 『ばけばけ』は「怪談」の制作過程を中心にしたお仕事ものではないが、たびたび出てくるトキやヘブンが怪談を愛する描写によって、小泉八雲の仕事にも興味を持った視聴者も少なくない。筆者も改めて八雲の「怪談」を読み返し、こんなに奥深く魅力的な内容だったのかと感じた。その怪談が絵物語になってよりとっつきやすくなった。『シリーズ〈夜想絵物語〉』は怪談が絵によって一層、ドキドキするように演出されている。どれもページをめくったときの臨場感がすごい。絵で怖さが倍増する演出がなされているのだ。

 子供のみならず大人も楽しめる絵本、いやむしろ大人のための絵本という風情だ。まず、ドラマの第1話冒頭でトキがヘブンに聞かせた『耳なし芳一』。これは盲目の僧・芳一が弾く琵琶を平家の亡霊が気にいって、彼らの世界に引き込もうとする。それを阻むため住職が芳一の体中に経を書きおまじないをかける。その晩、亡霊が芳一を呼びに来て……さあどうなる? というサスペンスフルな物語。イラストレーターのおくは大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合)公式イラストも担当して話題を呼んだ作家で、シンプルな描線で奥深い世界を描き切る。怖い物語に独特の省略された表情のギャップがリズム感を生む。また、写経された芳一の身体のイラストは圧巻だ。

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