第98回アカデミー賞主要部門を大予想 注目の作品賞は“自分たちで開く最高の送別会”に

 3月15日(現地時間)はアカデミー賞授賞式。ようやく、である。予想記事でこんな始め方もどうかと思うが、今年は全く盛り上がっていない。その理由はいくつかあるが、最も大きいのは授賞式日程が遅すぎること。今年は冬季オリンピックイヤーなので日程調整が入り、3月15日はパンデミック中の2021年、2022年を除くと、2003年の第75回(3月23日開催)以降最も遅い日程。ちなみに『パラサイト 半地下の家族』が作品賞を獲った記念すべき第93回授賞式は2020年2月9日で、2010年代の「オスカーキャンペーン疲れ」で視聴率が落ち続けた際に実験的に早期開催に踏み切ったそうだ。「ひょっとしてオスカーいけるかも?」の機運が高まるタイミングもぴったりで、授賞式以降に世界中がパンデミックに飲み込まれていったのも『パラサイト』の強運と言える。1月第2週のゴールデングローブ賞から2カ月、多くの候補作品がキャンペーンに本腰を入れる10月から6カ月。5月のカンヌ映画祭でキックオフとなる国際長編映画賞は10カ月。最多ノミネート作品となった『罪人たち』は2025年4月18日に北米公開されたので11カ月。さすがに、タレントもアワードパブリシストも投票者も、「もう疲れたよ……」となっている。この長期戦の弊害も恩恵も受賞結果に現れるだろう。

第98回アカデミー賞にノミネートされたキャスト・スタッフたち

 もう一つの理由は、ワーナーマウント(WarnerMount)問題。パラマウントなのかNetflixなのか、やっぱりパラマウントか!のシーソーゲームのような攻防戦は、はっきり言ってオスカーのどの部門よりスリリングだった。Netflixの降伏宣言が2月26日、オスカーの最終投票開始日だったのは偶然ではないだろう。ここから熾烈なアワードキャンペーンの最終コーナーが始まり、AMPAS会員はようやく落ち着いて投票用紙に目を通すことができた。

 そして、予想を難しくしたのは投票方法の変更。今年から該当部門の全作品を観ていないと投票できない条件が追加に。AMPAS会員用の試写ポータルサイトで視聴すると印がつき、映画館や試写会などで鑑賞した場合は自己申告が必要になる。この新ルールによって、負担を感じたり、自身の仕事で忙しい会員は投票を棄権する可能性が生じている。アカデミー協会は投票人数を発表しないが、多数決ではなく全投票数の半数以上の得票によって決まる選好投票を採用している作品賞に影響を及ぼしているかもしれない。

「箱推し」or 「単推し」で受賞傾向がわかる

 ところで、昨今のアカデミー賞の受賞傾向には、世界中のファンダムが勤しむ推し活を当てはめて考えることができる。作品が「箱推し(全体推し)」か「単推し(単独推し)」かによって、受賞傾向がわかるのだ。過去10年分を表にすると、2020年度の『パラサイト 半地下の家族』を境に箱推しが登場し、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が箱推しの完成系。かつては監督やテーマ、時代性といった単推しが多かったが、近年は「箱」が増えてきていることに気づく。昨年度の『ANORA アノーラ』は6ノミネート中、4つをショーン・ベイカーが受賞する「単推しよりの箱推し」となり、『オッペンハイマー』は、クリストファー・ノーランのカリスマでここまで登りつめた「箱推しよりの単推し」となる。前段で書いた投票ルールの変更も、時間を割いて全作品を観て投票する“オスカーへの貢献度”を測るようなものだ。ノミネート数と受賞数が近いものが「箱推し」と考えられる。オスカーは世界を股にかけた映画業界人気投票なので、AMPAS会員がどれだけ強く推したかが鍵になる。

 では今年はというと、ドキュメンタリーや短編映画、国際長編賞など「絶対ムリ」という部門以外全てでノミネートされている『罪人たち』は完全なる箱推しノミネート。「機は熟した。なんとしてでもポール・トーマス・アンダーソンにオスカーを」の『ワン・バトル・アフター・アナザー』は単よりの箱推し。主要俳優が全てノミネートされた『センチメンタル・バリュー』も箱推しである。一方で、ティモシー・シャラメによるハイパーマーケティングばかりが露出した『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』は単よりの箱推しだが、主演男優賞以外で受賞するのぞみは薄い。そのほかの候補作は全て単推しで、これが作品賞に手が届かない理由だと思う。

第97回アカデミー賞受賞結果予想

★本命 ●対抗 ▲サプライズ

作品賞

『ブゴニア』
『F1/エフワン』
『フランケンシュタイン』
『ハムネット』
『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』
★『ワン・バトル・アフター・アナザー』
『シークレット・エージェント』
『センチメンタル・バリュー』
●『罪人たち』
『トレイン・ドリームズ』

『ワン・バトル・アフター・アナザー』©2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.

 今年2本の「箱推し映画」を育てたワーナー・ブラザースは、おそらくこれが最後の単独でのアカデミー賞。作品賞最有力のどちらに転んでも祝杯をあげることができるので、「自分たちで開く最高の送別会」となるわけだ。BAFTA(英国アカデミー賞)からの『罪人たち』のラストスパートは素晴らしいが、授賞式が遅いゆえの恩恵でも弊害でもある。この流れがあと2カ月早くきていれば受賞できたかもしれない。

監督賞

クロエ・ジャオ『ハムネット』
ジョシュ・サフディ『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』
★ポール・トーマス・アンダーソン『ワン・バトル・アフター・アナザー』
ヨアキム・トリアー『センチメンタル・バリュー』
ライアン・クーグラー『罪人たち』 

 アメリカ映画を体現し、アメリカ映画を背負うPTAは満を持しての受賞。異論もないだろう。

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