マイルズ・テラー×エリザベス・オルセン×カラム・タナー『エタニティ』が問う恋愛の終着点

 死後の世界を移動する列車や、一時的に死者が宿泊するホテルなどは、妙に懐かしく、1970年代あたりの雰囲気を感じさせるところも面白い。このあたりの淡いウッドカラーをベースにしたヴィンテージ調のイメージは、美術監督のザズ・マイヤーズの仕事だ。本作がA24の配給により事前にアメリカの劇場で公開されたのは、彼女の感性によるアーティスティックな雰囲気に負うところも大きいだろう。

 こうした現実的な死後の世界を表現するコンセプトというのは、軽快で洒脱な作風で知られる、エルンスト・ルビッチ監督の『天国は待ってくれる』(1943年)の存在が根底にありそうだ。クールな俳優グレタ・ガルボを笑わせた「ツンデレ」表現の源流ともいえる『ニノチカ』(1939年)でも知られるルビッチは、テンポの良いスクリューボールコメディの名手であり、それに倣うよう本作のスタイルも、「ルビッチ・タッチ」と言われる軽妙な楽しさを再現しようとしているように感じられる。それが視覚的にもヴィンテージテイストとして表れていると考えられる。

 さて、この作品の焦点となるのは、やはり“二人の夫”の間に挟まれた女性・ジョーンが、どちらを選ぶのかという部分だろう。これは、一瞬で燃え上がるような恋愛が描かれながら、それぞれ異なる方向に着地するアメリカ映画、『タイタニック』(1997年)と『マディソン郡の橋』(1995年)の価値観を並列に置いてみるような試みでもある。ルークが死後の世界でジョーンを待っていたというロマンティックなシチュエーションは、『タイタニック』のラストシーンのようであるし、誠実な態度で妻の幸せを守ろうとするラリーの決断は、『マディソン郡の橋』において心揺れる女性の夫のようである。

 ただ、これらの価値観を冷静になって現実的に考えた場合、有利なのは長年連れ添った夫の方なのではないかという気もする。経済的な理由や子どもがいるからという理由で最後まで夫婦であることを全うするという社会的な事情もあるだろうが、この映画での二人は基本的にお互いに愛情を持って、死ぬまでうまくやってきたカップルなのである。

 人生のなかで何度か恋愛をする機会に恵まれても、たいてい長くは続かないものだ。そうした恋愛が多いという現実において、最後まで一緒にいられる相手のお互いの相性というのは、じつは“奇跡的”なものなのではないか。シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』にも代表される、一瞬の燃え上がる悲恋というのは、それが中途で終わってしまうから美しく感じられるが、実際に交際が続いたらどうなるかは、検証できていないのである。結局数カ月ほどしか保たないケースも当然多いはずだ。

 本作で描かれるのは、そうした長い人生を経るからこそ生まれてくる、地に足がついた恋愛の見方であるといえよう。それは、二つの価値を冷静に並べてみたからこそ、理解できる価値観だとも考えられる。そして、本作のような世俗的な死後の世界というものが、おそらくは存在しないと考えられる以上、充実させるべき“現世での生活”を、できるだけ意味のあるものにして、悔いのない人生を送っていこうという、ポジティブなメッセージを発していると読むことができるのだ。

 一方で、本作が「ルビッチ・タッチ」風の枠組みを導入しながら、情熱的な王道恋愛路線の展開に進んでしまう点には、やや中途半端な印象を与えられてしまうのも確かではある。アメリカの大手批評サイトでも、観客の支持率が非常に高いことが分かる本作だが、それはこの相反するテイストをポジティブに楽しんだ観客が多かったのだとみられる。そしておそらく、劇中のソフトな社会風刺も含め、一作のなかでさまざまな味が楽しめた満足感というものが大きかったのではないか。しかしそうした複合的な内容が、ここで紹介したような燃え上がる恋を描く『ロミオとジュリエット』や『タイタニック』、またクライマックスで無言の“サスペンス”がカタルシスとして昇華される『マディソン郡の橋』のような、名作映画の突出した魅力に、本作が数歩届いていない理由であるようにも考えられる。

 また、本作の「ジャンクション」に風刺された、大量消費社会や資本主義的なコマーシャリズムについては、ノア・バームバック監督がドン・デリーロの原作小説を映画化した『ホワイト・ノイズ』(2022年)が、近年の決定版といえるだろう。しかし、この『ホワイト・ノイズ』は、より痛烈に現在の社会を覆っている麻薬のようなシステムを見事に描きながら、観客の支持率は『エタニティ』に比べ圧倒的に低いのである。批評家の支持率すら低い。ここに多くの人々がポピュリズムに流れる原因がある……とまでは言わないが、より先鋭的・挑戦的なクリエイターにとっては残酷な現実であるといえるだろう。

■配信情報
Apple Original Films『エタニティ』
Apple TVにて配信中
画像提供:Apple

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