“完成された”天才と“未完成”の青年 『ウォンカ』と『チャーリー』の決定的な違いとは

 面白いのは、こうした人物像の違いがそのままお菓子の世界の描かれ方へと拡張されていくところだ。バートンが描いたチョコレート工場は人工的で、サイケデリックな色彩が目を引く。“人工物”であることの無機質さが、お菓子の持つ“温かみ”と相反することで、作品やキャラクター解釈における余地を生じさせるつくりになっている。

 対してキングの世界は、絵本的な色彩と手触りを備えながら、現実と地続きの場所として存在している。毒気は鳴りを潜め、お菓子は罠ではなく、誰かに手渡される贈り物として描かれる。

 バートンが「甘さの裏にある歪みと教訓」を描いたとすれば、キングが描いたのは「甘さそのものを信じる勇気」だ。それは現実を知らない無邪気さではない。むしろ、世界の不条理や残酷さを理解したうえで、それでもなお想像力と善意を選び取るという態度である。

 監督を務めた『パディントン』シリーズ(『パディントン 消えた黄金郷の秘密』は原案のみ)から一貫して続くこの視線は、キング監督自身の世界に対するまなざしであり、願いであり祈りでもあると感じる。こうした世界観は、作品単体の解釈というよりも、ポール・キングという監督の作家性に強く結びついている。

 また、そのことはキャスティングや脇役の扱いにも端的に表れている。『パディントン』『パディントン2』で母親役を演じたサリー・ホーキンスの友情出演は、過去作を知る観客にささやかな連想を促す。そこには説明も強調もないが、キング作品に通底する温度感が確かに引き継がれている。

 また、脇役にヒュー・グラントやローワン・アトキンソン――彼らがいれば観客は大いに安心して映画を楽しめる、という約束めいたキャスティングだ――大御所俳優を配する采配にも、権威を誇示するのではなく、物語を軽やかにするための遊び心が感じられる。制作陣からの作品へのお茶目なウインクが、より本作を愛おしく感じる存在にさせている。

 『チャーリーとチョコレート工場』から引き続き本作を視聴する人は、お菓子が人を幸せにする秘密とはいったい何なのかを考える甘く不思議な2週間となることだろう。

 ぜひ、寒い冬に心温まる一杯のホットチョコレートのようなストーリーを堪能してもらえたらと思う。

◾️放送情報
『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』
日本テレビ系にて、2月13日(金)21:00〜23:19放送
※地上波初放送・本編ノーカット
出演:ティモシー・シャラメ(Da-iCE 花村想太)、ケイラ・レーン(加藤千尋/セントチヒロ・チッチ)、ヒュー・グラント(松平健)、キーガン=マイケル・キー(チョコレートプラネット 長田庄平)、ローワン・アトキンソン(チョコレートプラネット 松尾駿)、パターソン・ジョセフ(岸祐二)、サリー・ホーキンス(本田貴子)、コリン・オブライエン(Lynn)、フィル・ワン(GENIC 増子敦貴)
監督・脚本:ポール・キング
脚本・出演:サイモン・ファーナビー
原作:ロアルド・ダール
音楽:ジョビー・タルボット
製作:デヴィッド・ヘイマン
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