マット・デイモン×ベン・アフレックのコンビ再び 『Rip/リップ』が描く警察官のリアリティ

 “切り裂く”などの意味を持つ「Rip」という英単語。アメリカの警察では、「“ブツ”や金を犯人から奪う」という用語として使われるという。その名の通り、映画『Rip/リップ』は、マイアミ市警・麻薬対策班による巨額の金の押収を題材にした、実際の事件を基に描く一作だ。

 この映画の面白いポイントは、警察官たちが麻薬絡みの大金を前にしたシチュエーションのリアリティである。もちろん、捜査上でそんなカネを発見したのなら、速やかに署に報告しなければならないし、運搬して然るべき場所に届ければいいだけの話だ。しかし現実には、さまざまなプレッシャーが乗しかかることになる。本作は、そんな現場の緊迫した状況を味わえる作品なのである。

 大金を発見してしまう警察官を演じるのは、幼なじみの名タッグで知られる、マット・デイモンとベン・アフレック。『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997年)や『ドグマ』(1999年)などでキャリアを積んだ二人が、いまではスター俳優として『AIR/エア』(2023年)などに続き再びの共演を果たしている。

 また、本作のジョー・カーナハン監督は『NARC ナーク』(2002年)にて、すでに麻薬捜査を題材にしている。一時は『ミッション:インポッシブル3』(2006年)の監督候補であり、『スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい』(2006年)で娯楽アクションの演出が高く評価された後は、中規模のアクションを中心に犯罪ものを得意としてきた。そんな彼のキャリアと技術は、犯罪のリアリティやガンアクションが展開する本作で遺憾無く発揮されたといえよう。

 地理的に中南米に近いマイアミは、アメリカへの麻薬密輸入の玄関口となってきた経緯から、麻薬捜査の最前線として知られる都市である。だからこそ、そこでは犯罪組織と麻薬取締当局との激しい攻防が展開されることになる。大金がかかった犯罪のため、犯罪者たちは銃などで武装していることも多く、捜査官は命懸けで仕事に従事しているのだ。

 デイモンとアフレックが演じる、デインとJDは、そんな緊張感ある捜査のなかで、ある古びた家の中に多額のカネが隠されているのを発見する。興味深いのは、そこですぐさまチーム全員に、外部との連絡を禁ずるという措置がとられるところだ。職務を遂行することが警察官の義務ではあるが、一生を遊んで暮らせるような大金が目の前にあるという事態は、その義務感をねじ曲げるだけの魔力がある、という表現だ。

 劇中では、現場で額を数えて正確な金額を記録するという、地味な作業の工程が描かれる。こういった現場のリアリティは、ジョー・カーナハン監督の友人でもあるという、実際に麻薬対策班の責任者だったクリス・カシアーノ自身の体験談がベースになっているという。映画の場面と同じように、古い家の壁を壊して大金を発見し、紙幣を数える作業をおこなったらしいのだ。ただ、そこで予期せぬトラブルが起き、娯楽映画らしい陰謀が描かれるところは、大幅に脚色してある。

 だからこそ、本作における、ほぼ事実を参考にした設定やシチュエーションは、これまで見たことのないような新鮮かつ具体的な面白さがある。大金を現場で数えるには時間がかかり、そこで緊迫感が生まれることになるという、一見地味だが実感のこもったアイデアは、脚本家が部屋で考えていてもなかなか出てくるものではない。

 大量の紙幣を、一枚、一枚とカウントしていく警察官の心理。そこで一瞬でも、“犯罪組織が稼いだ汚いカネなのだから、自分のふところに入れてもいいのでは”などと、よからぬことを考えることを、責められる者がいるだろうか。われわれ観客も当事者であれば、同じ思いを抱いてしまうのではないだろうか。

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