『ばけばけ』髙石あかりの“悲鳴”がまるでホラーに 現代ともリンクする“20円の壁”

 『ばけばけ』(NHK総合)第67話では、トキ(髙石あかり)の切実なジレンマが描かれた。

 杵築の出雲大社で、ヘブン(トミー・バストウ)と夫婦になることを誓い合ったトキ。錦織(吉沢亮)からも祝福され、新生活がはじまると思った矢先、トキは大事なことに気づく。松野家のことだ。司之介(岡部たかし)やフミ(池脇千鶴)、勘右衛門(小日向文世)は、トキがヘブンと結ばれるとは思っておらず、実家の承諾を得ていない。家族への報告を急ごうとするヘブンを、トキは必死に押しとどめて言う。

「いきなり一緒になりますって言われるだけでもびっくりなのに、相手がヘブン先生だって知ったら、父も母もおじじ様も心の臓が止まってしまいます」

 トキの懸念は、この時点ではまだ漠然としたものだったが、直感的に「やばい」と悟ったのだろう。感情をストレートに表現するヘブンが松野家へ行けば、何が起こるか予測不能だ。ましてや、自分と結婚するのだから。心臓が止まるという心配も、決して誇張とは言いきれない。

 この時代に海外出身の人間と結婚する大変さは、現代の比ではなかったはず。トキの苦労は、松江では誰も経験したことがない未知の領域。そう考えると、第67話でトキが取り乱したのも当然の結果と思える。

 長屋の前で立ち往生するトキの葛藤は「親に言いにくいんだけど言わないけんことって、どげして言ったらええんかね?」という言葉となってこぼれ落ちる。しかし、この段階でトキはまだ、重大な事実に気づいていなかった。それこそが、松野家にとって避けて通れないクリティカルな論点だったのである。

 よく気づく性格で、先回りして相手の気持ちを察するが、自分自身のことは少し疎いトキは、司之介やフミと話しているうちに気づいてしまった。その瞬間、悲鳴が漏れたのも無理はない。それはホラーとしか言いようがなかった。

 「20円の壁」。年収に換算すれば240円だ。ヘブンの妻となり扶養に入ると、女中として受け取っていた給料は払われなくなる。松野家の大黒柱であるトキにとって、手取りがまるごと消失することを意味する。影響は松野家だけではない。タエ(北川景子)や三之丞(板垣李光人)ら雨清水家の人々も、ふたたび路頭に迷うことになりかねない。

 「母上は父上からお金もらったことある?」とさりげなくジェンダーロールの視点に触れつつ、稼ぎ手がいなくなるという生活に直結した問題に焦点を当てる展開は、私たちが生きる現代とリンクしていた。年明け初週から視聴者の関心事に斬り込む『ばけばけ』から、2026年も目が離せない。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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