『千と千尋の神隠し』が伝えた“生きる力” 千尋×カオナシの関係はなぜ記憶に残るのか?
宮﨑駿監督の長編アニメ『千と千尋の神隠し』(2001年)が新春1月2日に日本テレビ系の『金曜ロードショー』で放送。『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020年)が記録を塗り替えるまでは興行収入で日本映画のトップにあった作品だ。漫画とTVアニメで人気を盛り上げていた『鬼滅』と違ったオリジナル作品が、25年前に大人気となったのはなぜなのか。どこが観客を引き付けたのか。
愛知県長久手市に2022年にオープンした「ジブリパーク」で1番の人気スポットを挙げるなら、「ジブリの大倉庫」にある「ジブリのなりきり名場面展」に行き着く。そこでは『天空の城ラピュタ』(1986年)で空から落ちてくるシータを抱き留める場面を再現したり、『紅の豚』(1992年)でポルコと殴り合うポーズを体験できたりした。そこで最も人気を集めていたるのが、『千と千尋の神隠し』の再現ゾーン。電車のシートに座ってカオナシと一緒に記念撮影をするフォトスポットで、開場と同時に長い行列ができる。
映画の中でカオナシは、湯屋に侵入して暴れ回り千尋たちに大迷惑をかける悪役だ。千尋から名前を奪って湯屋で働かせている湯婆婆よりも嫌われる要素が多い存在であるにも関わらず、千尋とカオナシが電車で銭婆のところへと向かうシーンの再現を、大勢のファンが受け入れ楽しそうにカオナシとの記念写真を望む。
自分が千尋のようになって映画のシーンに入り込めるからということもあるだろう。ただ、それならハクを傍らに千尋がおにぎりを食べながら大粒の涙をぼろぼろとこぼすシーンでもいいはずだ。映画の中で最も感動を呼ぶシーンとして大勢の記憶に残っていて、ここで泣きたいからと何度も映画館に通う人もいた。あまりの反響に『千と千尋の神隠し』のDVDが発売になった際、おまけにおにぎりのフィギュアが特典として付いたほどだ。
けれども、フォトスポットに採用されたのはカオナシとともに旅立つシーンだった。このことは、『千と千尋の神隠し』という映画の中で知らず感動を誘われ、強く心に印象づけられるシーンだったということを示唆している。そして実際に、映画においてこのシーンこそが宮﨑駿監督にとっても重要だったことが明かされている。
宮﨑監督に編集者の渋谷陽一が重ねたインタビューを収録した『風の帰る場所 ナウシカから千尋までの軌跡』(文春ジブリ文庫)の中で、監督は、「僕は電車に乗っていくところが山場だと思っていて、むしろその前の追っかけたりっていうのは、ただの前段なんですよ」と語っているのだ。「その十歳の女の子が刀の中を潜り抜けたりなんかするよりも、やっぱりこう、初めての世界で自分の意思でしっかりきちんと電車に乗っていくっていう、そっちのほうをやりたいと思いました」
そこまでの千尋は、親が決めた引っ越しを嫌がりふて腐れていたところで、知らない世界へと迷い込んでしまい、親が豚になってしまうという恐怖を味わい自分も消えてしまいそうになって震えていた。ハクによって導かれ、湯屋に働き口を見つけて懸命に働くうちに、オクサレさまを綺麗にしてあげてご褒美をもらって少しだけ自信を持った。そして、ハクにかけられた呪いを解くために銭婆のところへと赴く決断をした。
千尋に自分をなぞらえ、いろいろなアクシデントに不安を感じて泣き出しそうになっていた観客も、同じように自分自身の道が開けたような気になった。そうした気持ちの転換点をもらえた喜びと、どこまでも続く海の上を電車が進んでいく美しい映像に抱いた感動が、たどりついた銭婆の家で温かく迎え入れられた経験とも合わさって深く記憶に刻まれた。
だから、カオナシとの旅立ちを最高のシーンと思うようになってフォトスポットに行列を作るのだ。