2025年オリジナルアニメは何を更新した? 『全修。』『ミルキーサブウェイ』などから考察

 2025年、日本のアニメ映画では、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』、劇場版『チェンソーマン レゼ篇』といった原作を持つ作品が興行収入の記録を更新し続けた。TVアニメでも『ダンダダン』『薬屋のひとりごと』などが大きな話題を集め、「原作を持つ作品の強さ」が、これまで以上に数字と視聴者の反応の両面で示された1年だった。

 一方で、オリジナルアニメにも、記憶に残る動きを見せた作品があった。2025年に話題となったオリジナル作品を振り返ると、大きく2つの傾向を読み取ることができる。

 ひとつは、世界市場を前提にした作品の躍進だ。配信プラットフォームの普及によって、アニメが国境を越えて届くのは、もはや当たり前の環境になった。ただし、原作ものの場合は出版社や権利元との調整があり、配信形態や資本構成を自由に設計しづらい面もある。2025年は、オリジナル作品の強みである“身軽さ”を生かした作品が特に目立った。

『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ 各駅停車劇場行き』©亀山陽平/タイタン工業

 その象徴ともいえるのが、夏クールの『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』だ。監督・脚本・キャラクターデザインなどの実制作のほとんどを亀山陽平が一人で手がけ、放送と同時に11言語の吹替版をYouTubeで全話無料公開した本作。放送中から国内外で大きな反響を呼び、2025年のオリジナルアニメを代表する一作となった。

 本作の驚くべきところは、1話が約3分半という点だ。通常のアニメなら導入すら終わらない尺を、本作では会話劇が埋め尽くす。登場するキャラクターたちの掛け合いは、話題が逸れ、言葉が重なり、ときに噛み合わない。

 この“ナチュラルすぎる会話劇”について、亀山監督は「みんなが同時に喋り出しちゃうような現象は、現実にも結構ある」「作品としてではなくて、生き物を見せている描写として重要な要素のひとつ」と語っている(※)。映像のために整理された会話ではなく、友人同士の雑談を盗み聞きしているような手触りこそ、本作の核だ。

『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ 各駅停車劇場行き』©亀山陽平/タイタン工業

 設定も説明されるのではなく、会話の隙間から立ち上がる。砂糖がドラッグのように扱われていること、サイボーグの身体について聞くのはデリカシーがないこと……SF的世界のはずなのに妙にリアリティのある世界観も、何気ないやり取りに織り込まれている。派手な設定よりも、キャラクターたちの日常の空気感が先に視聴者を掴む。1980年代レトロと近未来を融合したファッション、キャンディーズの主題歌も、この空気に奉仕している。

 会話劇だけではなく、アクションと音楽が同期する「音ハメ」演出も本作の武器だ。たとえば第7話「仕事と見返り」で、マックスとカートが暴走する排除くんを止めるシーン。攻防の動きと音がぴたりと噛み合う快感に、思わず観返した人も多いはずだ。言葉に頼らないからこそ、国境も越える。至ってシンプルではあるが、11言語同時配信という挑戦を支えたのは、言葉を超えて伝わる映像の強度だ。

 YouTubeでの総再生回数は1億5000万回を突破、劇場版の制作も発表された『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』。配信時代のヒットとは何か。そのひとつの答えを示した一作となった。

『LAZARUS ラザロ』©2024 The Cartoon Network, Inc. All Rights Reserved

 グローバルを前提とした設計は、春クールの『LAZARUS ラザロ』にも見られる。渡辺信一郎監督がカートゥーン・ネットワークの単独出資を受け、『ジョン・ウィック』のチャド・スタエルスキがアクション監修を務めるなど、ハリウッドとの協業を前提に組み立てられた本作。日本市場だけに頼らない体制だからこそ、グローバルな資本が作家性の強いオリジナル企画を支える形を示した。エミー賞のオリジナル・メインタイトル・テーマ音楽部門へのノミネートは、その成果のひとつだ。

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