寛一郎が成功した実業家で『ばけばけ』に再登場 トキが素直に喜べなかった理由とは?
『ばけばけ』(NHK総合)第62話では、銀二郎(寛一郎)が松野家を訪れた。
裏路地に姿を見せた長身の紳士。仕立ての良いスーツに身を包み、髪を丁寧になでつけた銀二郎を最初に見つけたのはサワ(円井わん)だった。
4年前に出奔した銀二郎を、松野家の人々は温かく迎える。てっきり勘右衛門(小日向文世)や司之介(岡部たかし)に成敗されると思っていただけに、少し拍子抜けした感もあるが、「もう忘れた」と勘右衛門が言ったように、すでに過去の出来事になっていたのかもしれない。日々の生活をなんとかするだけで精いっぱいなのだ。
垢抜けて見違えるようになった銀二郎に、司之介たちは質問を浴びせる。銀二郎は会社を興し、月収200円を得るなど東京で成功していた。銀二郎は、トキを迎えに来たと来訪の趣旨を告げる。物心両面で余裕が生まれ、松江に置いてきた元妻を思い出したのだろうか。
松野家としては、200円ならトキがヘブン(トミー・バストウ)の女中をしてもらえる20円の10倍なので、願ってもない話である。都合の良いことに、銀二郎の籍はそのまま。ただし、かんじんのトキはと言うと……。
トキの心情を考えてみる。4年前、はるばる東京まで連れ戻しに行ったとき、銀二郎は松江に戻ることを承知しなかった。トキと銀二郎は怪談好きで話が合い、一生懸命働いて、貧しくても楽しい生活がありえた。それを断ち切ったのは銀二郎で、トキ自身は紆余曲折あって、外国人教師の女中奉公をしている。ヘブンに怪談も気に入ってもらえて、それなりに充実した日々を過ごしている。そこに現れたのが元夫だ。
銀二郎との再会を前に浮かない表情のトキを見ると、つくづく人生はタイミングだと感じてしまう。タイミングとは、気持ちが合うか合わないかだ。4年前の銀二郎は「光が見えない暗闇」の中にいて、トキが差し出した手を握ることができなかった。追い詰められた銀二郎に必要だったのは、少しの自尊心と息をつける場所だった。この辺りの事情は、松野家にも原因がある。
第62話では、もう一つの再会、ヘブンがイライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)を迎える場面も描かれた。船に乗って、単身、松江を訪れるイライザは行動力があり、ヘブンを見て自分からハグしたように、人を引きつける魅力を備えた人物なのだろう。
再会というイベントは、過去と現在が交錯する交差点のようなものだ。現在の銀二郎を、トキはどう見るだろう。銀二郎のことより、川向こうの船着き場が気になってしまうトキは、いつ自分の本心に気がつくだろうか。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK