小泉八雲の“再話”ともリンクする『ばけばけ』の構成 “怪談”を朝ドラで扱う意図を考える

 「ひとつの伝説がまたひとつの伝説を呼び、今夜はいくつもの珍しい話を聞いた」という一文が八雲の著書『知られぬ日本の面影』の「日本海に沿って」の章にある。八雲が伯耆の国を旅した記録で、宿の女中から聞いた体(てい)になっているが、解説には、実際はセツから聞いた話であろうとする説があると書いてある。記録を多少、アレンジしているのだろう。

 『鳥取の布団』は連れ(セツのこと)と浜村という村にいったときに、これから鳥取に行くと聞いた旅館の女中から聞いたものとして記されている。その晩、女中も交え、いろいろな話を聞いたなかで、連れが思い出して話したのが『子捨ての話』だった。

 八雲はこうして日本に滞在し、旅もしながら、各地に伝わる怪談や昔話を聞き書きし、少しアレンジして文学作品として完成させていった。こういったものは「再話」という。

 「『水あめを買う女』には続きがあるんです。その後拾われた赤子は元気に成長しましたというような後日談が。ところがハーンはそれを書いていない。原文(言い伝え?)にはない『母の愛は死よりも強し』という言葉を付け加えて『知られぬ日本の面影』に収めています。そこにハーンのオリジナリティがあるような気がします。彼の生まれ育ちがとてつもなく強く反映されている一文なので、ドラマのいいところで出したいと考えていました」と制作統括の橋爪國臣チーフプロデューサーは語る。(※)

 「再話」は必ずしも元の話と同じでなくてもいい。聞いた人の感性でプラスアルファされていく(あるいはカットされる)。そうやってひとりひとりの物語として形を変えながら残っていく。昨今、何かとドラマが史実どおりでないことの是非が問われるが、小泉八雲は、変化する「再話」という文学を極めた人だった。

参照
※ https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/67e7afae79b3255976557ad5b64a0744fde0bdd5

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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