『ズートピア2』ジュディ&ニックの“友情”は健在 ルッキズムやジェンダーの描き方を紐解く
ジェンダーとの距離感
社会派なものを扱っていながら、ジェンダーの描き方が弱いと感じるかもしれないし、確かにズートピアは男性社会と言えなくもない。ただそれは現実社会の課題点も反映しているからであって、極端に描くことは、逆にファンタジーにしてしまう危険性がある。とはいえフェミニズム的側面がないわけではない。
主人公のジュディ・ホップスは、ウサギ初の警察官という設定だが、これは草食動物、小動物をマイノリティ、肉食動物をマジョリティとし、その対立のメタファーと解釈できるのと同時に“女性初”のメタファーともなっている。つまりストーリーラインとしては『グンジャン・サクセナ -夢にはばたいて-』(2020年)や『G.I.ジェーン』(1997年)に似ている。
というよりも、日本でも古くから『婦人警察官』(1947年)という作品があったように、政府や軍隊、警察組織が男性社会の元に成り立っている構造のなかに女性が飛び込んでいくというのは、もはや定番ネタともいえるのだが、フェミニズム映画として感じさせるには、動物のアニメーションというパッケージが邪魔している部分が無いとはいえないまでも、随所に要素は散りばめられていた。
細かい描写でいうと、前作同様に、アイドル歌手のガゼルはズートピアの中で圧倒的なセックスシンボルとして君臨しているが、彼女からは映画では語られない奥深さが常にチラついている。そのため、女性であることを売りにしておらず、実力だけで突き進んできたジュディを尊敬している様子が、短いシーンのなかに感じられた。ズートピアは、発展途上で、まだまだ男性社会。必ずというわけでもないが、比較的小動物のほうに女性が多く登場するのは、小動物のほうがジェンダーレス化は進んでいるからかもしれない。
そういったその他もろもろ、社会構造の風刺や俯瞰であるという解釈は、もはや溢れかえっていて、そこを解体していくのも悪くはないし、若干、過大評価し過ぎて、こじつけている部分もある気がしないでもないが、『ズートピア』という作品のなかで、もっとシンプルで、明確に避けている着地点に注目してもらいたい。
恋愛関係にはならないジュディとニック
それはジュディとニックが恋愛関係にならないことだ。それを望んでいるファンも多いかもしれないし、ふたりの恋愛と妊娠を描き、物議をかもしたDeviantARTの二次創作『I Will Survive』のようものがあることや日本でも、そこを取り上げた同人誌の多さが物語っている。
しかし逆にいえば、ふたりが恋愛関係になった時点で、この作品の説得力は半減してしまうだろう。何が言いたいかというと、今作が描いているのは、絆と友情、そして愛であるが、その愛は決して“恋愛”ではない。つまり永遠のテーマともいえる“男女の友情は成立するのか”を真正面から描いているのだ。
今作のなかでも「あなたが大切」とか「好き」という言葉は何度か使用されているし、他の異性と行動することに嫉妬を感じる描写はあるものの、そこに恋愛感情を超越した“尊重”を感じさせたのは、今作の最大の偉業。意地悪なことを言えば、アカギツネの女性とアナウサギの女性の新キャラを出したときの反応がどうなるかを見せてほしいところだ。
仮にそのテーマを描きつつも、結局のところ恋愛に着地する作品は多くあるなかで、最後までこのテーマを議論し続けた作品として思い当たる作品がひとつある。それはNetflix映画『キスから始まるものがたり』(2018年)だ。同作は、ジョーイ・キング主演で全3作制作されたシリーズであり、主人公ふたりの着地点が恋愛でないことに説得力をもたらしていた。『ズートピア』の場合もそれに通じるものが描かれていたといえるだろう。
『ズートピア』の世界には、まだまだ知られていない部分が存在している。今作のなかで爬虫類に加えて、セイウチやイルカなどの海の生物も複数登場するが、動物に関しても謎が多い。これから、どこまで世界観を拡張してくれるかも気になるところだが、ジュディとニックの関係が、最終的にどこに向かっていくのかも見守っていきたい。
■公開情報
『ズートピア2』
全国公開中
声の出演:ジニファー・グッドウィン、ジェイソン・ベイトマン、キー・ホイ・クァン、フォーチュン・フィームスター
日本版声優:上戸彩、森川智之、下野紘、江口のりこ、山田涼介、梅沢富美男、三宅健太、Dream Ami、髙嶋政宏、水樹奈々、柄本明、高橋茂雄(サバンナ)、熊元プロレス(紅しょうが)、高木渉、山路和弘、ジャンボたかお(レインボー)
監督:ジャレド・ブッシュ、バイロン・ハワード
プロデューサー:イヴェット・メリノ
オリジナル・サウンドトラック:ウォルト・ディズニー・レコード
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
原題:Zootopia2/全米公開:2025年11月26日
©2025 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.