北香那は『ばけばけ』の“第2のヒロイン”? ふじきみつ彦作品との縁がもたらす存在感

 朝ドラ『ばけばけ』(NHK総合)が楽しくて仕方がない。同じように感じている視聴者はかなり多いのではないだろうか。ヒロイン・トキ(髙石あかり)と人々の交流はコミカルかつチャーミングなもので、観ていると自然とこちらの気分も弾んでくる。そんなところへ、さらに展開に弾みをつけてくれそうな新キャラクターが登場する。その人物とは、島根県知事・江藤安宗(佐野史郎)の娘である江藤リヨ。演じているのは北香那である。

 本作は、小泉八雲とその妻のセツをモデルにした物語を描いていくもの。『雪女』や『耳なし芳一』などの誰もが知る怪奇譚がどのようにして生まれ、私たちの生きる時代にまで語り継がれることになったのか。トキとヘブン(トミー・バストウ)の関係をとおして私たちは知っていくことになる。リヨは第9週「スキップ、ト、ウグイス。」から登場。番組公式サイトには“才色兼備のお嬢様”と記されており、彼女はヘブンに惹かれていく存在なのだという。

 現在のトキとヘブンは女中と主人の関係だが、やがて夫婦になることを私たちは知っている。そんなふたりの間に入ってくるのが、このリヨという人物なのだ。英語も堪能なのだから、さまざまな面でトキに勝っている。ヘブンの理解者や相談者にだってなれるだろう。演じる北はこのキャラクターをどのように表現していくのだろうか。

 北は『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(2019年/NHK総合)、『鎌倉殿の13人』(2022年/NHK総合)、『どうする家康』(2023年/NHK総合)と大河ドラマには3作も出演しているが、朝ドラに参加するのはこれがはじめて。本作の公式ガイドブックである「NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 ばけばけ Part1」で北は、「当時の女性としては珍しいタイプのキャラクター。自分を疑うことなくまっすぐに進んできたような溌剌さがあり、そこに嫌みがない」と、リヨのキャラクターについて分析している。

 この発言から察するに、リヨはこれまでの『ばけばけ』に登場してきた女性キャラクターたちとは、大きく異なるタイプの人物のようである。強い主体性を持つキャラクターの登場は、本作に新鮮な空気を入れることになるのではないだろうか。しかも北は、そういった役どころを演じることに長けている。たとえば、映画『春画先生』(2023年)で演じた春野弓子がその代表格だ。彼女は春画の研究者に恋をし、脇目も振らず突っ走るヒロインだった。自分の欲求に素直になり、好きなものを好きと、欲しいものを欲しいと言う。声にも表情にも身体にも力がこもった、じつに清々しい好演だった。

 リヨ役と北の演技について、『ばけばけ』の制作統括を務める橋爪國臣は「明治の最先端を行く女性としての気品、ちょ突猛進なほどの意思の強さ、そして時折のぞく愛らしさ、そのすべてが感じられるお芝居です」と語っている(※)。ヘブンに想いを寄せるということからも、『ばけばけ』における“第2のヒロイン”のポジションを北が担うことになるのではないか。トキとはタイプの異なるキャラクターだということも、この見立てを強固なものにするはずだ。

 しかも北は、本作の脚本を手がけるふじきみつ彦と特別な関係にある。ふじきの代表作のひとつ、『バイプレイヤーズ 〜もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら〜』(2017年/テレ東系)でメインキャラクターのひとりを好演し、お茶の間で広く知られる存在となったのだ。こういう経緯があるだけに、『ばけばけ』での再タッグは楽しみで仕方がない。もしも彼女が“第2のヒロイン”のポジションにまで踊り出れば、これが北の新たな代表作にだってなり得る。若き演技者である北香那の、次なる展開にもつながっていくことだろう。

参照
https://realsound.jp/movie/2025/09/post-2160683.html

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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