佐藤浩市が体現する“弱さ”という最強の武器 『ザ・ロイヤルファミリー』は新たな代表作に

 日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』(TBS系)で描かれるのは、競馬の世界を舞台にひたすら夢を追い続けた熱き人間たちの20年にわたる物語。主人公の栗須栄治(妻夫木聡)は大手税理士法人に就職したが挫折を経験し、希望を見出せないまま淡々と仕事をこなしていたが、山王耕造(佐藤浩市)と出会ったことで人生に大きな変化が訪れる。栄治は競馬に情熱を注ぐ馬主である山王耕造が社長を務める人材派遣会社ロイヤルヒューマンの競馬事業部の専任秘書となり、周囲の人たちを巻き込みながらも真摯に耕造の夢と向き合っていく。

 第6話放送後に話題になったのが、典型的なワンマン社長で豪快に我が道をいく耕造にがんが見つかり、ロイヤルホープの引退だけではなく、自らも社長を退くという決断を意外すぎるほどあっさり決断したこと。そして、これまでの強気な表情とは真逆の、弱さや老い、自分の後を引き継いでいく若い世代への温かい眼差しなど、夢を託すための心情が丁寧に描かれ、佐藤浩市の演技が幅広い年代の人たちの共感を得たということが挙げられる。

 佐藤浩市の素晴らしいところは、問題点を指摘されがちな昭和の価値観を全面に押し出す耕造のような無骨で、傍若無人に見えるキャラクターをチャーミングで愛おしいと思わせる天性の魅力と演技力を備えているということ。長い俳優人生でさまざまな役柄に挑戦し、キャリアを積んできたということもあるが、色気で惹きつけるというだけでなく、その人物が持つ繊細な部分を表現することで周囲の人たちとの関係性や距離感にも説得力が生まれ、共感しやすくなる。

 例えば、佐藤浩市が演じて、とくに忘れられないキャラクターといえば、三谷幸喜脚本のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の上総広常がまず候補に挙げられる。上総広常は、同じく三谷幸喜が脚本を手がけた大河ドラマ『新選組!』で佐藤が演じた芹沢鴨も彷彿とさせた。

『鎌倉殿の13人』「お前は俺になるんじゃねぇ」佐藤浩市、上総広常の“最後の笑顔”を語る

毎週日曜日に放送されているNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』。このたび、上総広常を演じた佐藤浩市よりコメントが寄せられた。  …

 広常は、上総一国を支配下に置く2万の兵を擁する東国屈指の有力豪族。奥州の藤原秀衡とも繋がりを持つ、最も頼りになり、最も危険な男。源頼朝(大泉洋)からも平家方の大庭景親(國村隼)からも味方するよう懇願され、北条義時(小栗旬)の再三の説得もあり、棟梁の器があると認めた頼朝に仕えると決断する。

 豪胆で荒々しいけれど、頼朝への忠誠を誓い、親しみも感じ始めた広常。豪族たちとの酒席に頼朝も顔を出すことになり、酔って頼朝を呼び捨てにする勢いの広常に三浦義村(山本耕史)が機転を利かせ「武衛(ぶえい)呼び」を勧めた。義村は、唐の国では親しい相手への呼び方だと説明したが、じつは「佐殿」よりも尊称になる。

 「こっちに来いよ、武衛!」と困惑気味の頼朝を力強い口調で誘う広常。「今日から、お前らも武衛だ。みんな武衛だ!」とみんなに呼びかけ、きょとんとする頼朝に「いいんだよ、俺のことも武衛って呼んでよ。さぁ、武衛同士、飲もうぜ」と景気良く酒を注ぐ。「武衛同士っていうのは何だ?」という頼朝とはすれ違うものの、広常の豪放さが思う存分伝わる楽しいシーンだ。

 また、頼朝の上洛という目標を果たしたときのために、苦手な文筆も練習。「若い頃から戦ばかりでな。まともに文筆は学ばなかった。京へ行って、公家どもに馬鹿にされたくねぇだろ。だから、今のうちに稽古してんだよ。人に言ったら殺す」と義時に見つかったときは恥ずかしがり、脅していたが、稽古の真剣な表情には心動かされるものがあり、その後の頼朝の裏切りと悲劇がより広常の存在感を強いものにした。

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