吉永小百合は“全盛期”を更新し続けている 1960年代から現在に至るまで変わらない透明感
10月31日に公開された映画『てっぺんの向こうにあなたがいる』が好スタートを切っている。「週末動員ランキング」では初登場3位に入り、公開3日間で16万4000人を動員、興行収入は1億8900万円を記録。これは興収11.1億円を記録した2023年の主演作『こんにちは、母さん』の初日3日間より112%も高い数字で、80歳を迎えた吉永小百合が今なお、集客力と話題性でトップを走る存在であることを裏付ける結果となった。
阪本順治監督による『てっぺんの向こうにあなたがいる』は、日本人女性で初めてエベレスト登頂に成功した多部井淳子(劇中では多部純子)の半生をモデルとした物語。主人公を吉永が、青年期をのんが演じる。木村文乃、天海祐希、佐藤浩市ら脇を固めるキャストも豪華だ。映画サイトのレビュー欄には「寄り添う夫婦に胸が熱くなった」「吉永さんの演技が軽やか」といった声が並び、映画の内容そのものへの評価に加えて、吉永の演技が物語の深度を押し上げていることを指摘する意見が目立つ。
そんな吉永といえば、11月27日に発売される写真集『吉永小百合』も話題を集めている。価格は2万5000円と高額ながら、紀伊國屋書店ではパネル展が組まれるなど反響は大きい。収録されるのは1995年の前回写真集から再セレクトされたカットに加え、初主演作『ガラスの中の少女』から最新作まで124本の出演作をたどる構成である。さらに、共演者との記録、自筆の追悼文、ロングインタビューも収録され、まさに“時を超えるアーカイブ”のような内容で、12月には限定50名のサイン本お渡し会も予定されているようだ。
興味深いのは、これらが“懐かしさ”による盛り上がりではなく、現在進行形の人気に支えられている点である。近年、吉永が主演した映画を振り返ると、『おとうと』『北のカナリアたち』『ふしぎな岬の物語』『母と暮せば』『北の桜守』『最高の人生の見つけ方』『いのちの停車場』『こんにちは、母さん』はいずれもヒットの目安となる興収10億円を突破しており、今回の『てっぺんの向こうにあなたがいる』で“9作連続”となる可能性が高い。一般的に俳優は年齢を重ねると役柄が限定され、興行力も落ちる。しかし吉永の場合、傾向は完全に逆であり、数字だけ見れば「今が全盛期」と評しても不自然ではない。
また、吉永の現在の在り方を象徴する出来事として、2019年放送の『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK総合)での発言がある。10カ月の密着取材の中で、「私はアマチュア」と語っているのだが、演技を“技術”ではなく“生きること”として受け止め、常に初心に立ち返るための言葉だという。この姿勢が、80歳を迎えてもなお新鮮な表情をスクリーンにもたらしていることは間違いない。
吉永のキャリアの変遷を踏まえると、“サユリスト”と呼ばれるファンに支えられてきたそのブランド力の高さが揺るぎないことがよくわかる。
1960年代には純愛映画の象徴として人気を確立し、1970年代にはイメージに頼らず幅のある演技へ踏み出した。2000年代以降は市井の女性や母親役など、年齢とともに変化する役柄を自然に引き受け、そのたびに新たな魅力を観客に提示してきた。さらに、現在でも映画撮影に向けて体づくりに励み、近年では初のバラエティロケにも挑戦するなど、その柔らかな意欲は衰えるどころかむしろ増しているようにすら見える。観客が「また新しい吉永小百合に会える」と期待を抱き続ける理由がここにある。そして何より、スクリーンに映る“存在感”は圧倒的。姿勢、声、目線、立ち姿――そのすべてが丁寧で、年齢を超えた透明感をまとっている。
観た後に“挑戦したい”“まだやれる”という気持ちになる『てっぺんの向こうにあなたがいる』。それは、まさに吉永の生き方そのものでもあり、「なぜ80歳でここまでの結果が出るのか」ではなく、「80歳だからこそ生まれた到達点」であることを多くの観客が劇場で体感するに違いない。
■公開情報
『てっぺんの向こうにあなたがいる』
TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
出演:吉永小百合、のん、木村文乃、若葉竜也、工藤阿須加、茅島みずき、円井わん、安藤輪子、中井千聖、和田光沙、天海祐希、佐藤浩市
原案:田部井淳子『人生、山あり“時々”谷あり』(潮出版社)
監督:阪本順治
脚本:坂口理子
音楽:安川午朗
製作総指揮:木下直哉
制作プロダクション:キノフィルムズ/ドラゴンフライ
配給:キノフィルムズ
協力:一般社団法人 田部井淳子基金
©2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会