西村瑞樹、大水洋介、ひょうろく 『もしがく』を底上げする三者三様の“笑いのプロ”たち

 いっぽう、バイきんぐの西村がこれまでに出演した映画やドラマは多くはない。それぞれ片手で数えられる程度のもので、30年近い芸歴に対して、かなり少ないといえるだろう。今年はドラマ『離婚弁護士 スパイダー Season2 〜偽りと裏切り編〜』(日本テレビ系)にも登場しているが、ゲスト出演なので出番は多くない。宮崎大祐監督による映画『V. MARIA』にも出演しているが、そう目立つ存在でもなかった(これはうまく作品世界に溶け込んでいるということでもある)。西村が演技をしているところを思い浮かべられる人は、ほとんどいなかったのではないだろうか。『もしがく』がはじまるまでは。

 今作で演じている彗星フォルモンは、間違いなくハマり役だろう。基本的に横柄な態度の人物で、「八分坂」の住人たちの中では“キレキャラ”でもある。しかもそのうえ現金な性格で、好人物な王子はるおとは真逆の人間。しかしこの徹底ぶりが頼もしい。彼らが対照的なコンビを演じるのに徹することで、ここにひとつの特別な人間関係が生まれ、物語の本筋から枝分かれしたサイドストーリーが生まれる。それが私たちの前にハッキリと示されたのが、前回の第7話だったのではないか。はるおはフォルモンの元を去り、「コントオブキングス」は解散となった。彼らの別れのシーンはいまのところの本作における名シーンだと思う。そこにあったのは繊細な人間ドラマだった。俳優としての経験が少ない西村もそうだが、経験豊富な大水にとっても本作は代表作になるのではないだろうか。

 さて、そんな彼らの背後に控えながら、たしかな存在感を示しているのがピン芸人のひょうろくだ。彼が演じるのは、「八分坂」の住人たちがたびたび集まるジャズ喫茶・テンペストの従業員である仮歯。番組公式サイトでは彼のことを“気弱で神経質”と紹介しているが、劇中でのひょうろくは、まさにこれを体現している。

 絶えずいつも不安げな表情を浮かべ、声もか細く震えている。これらは彼の演じる技術によって生み出されているものなのだろうか。それとも、作り上げられた仮歯の内面が、ひょうろくの表情や声といった細部に表れているのだろうか。おそらくは後者なのだと思うが、それが明らかになるのは今後の展開しだいだろう。西村と大水ほどの見せ場があるのかは分からないが、こうして“三谷ワールド”の個性的な住人を演じた経験は、これからのエンタメ界において肯定的に迎えられるはず。ひょうろくの俳優としての姿を目にする機会が増えるかもしれない。この三者の存在が、『もしがく』の世界を豊かなものにしているのだ。

■放送情報
『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』
フジテレビ系にて、毎週水曜22:00~22:54放送
出演:菅田将暉、二階堂ふみ、神木隆之介、浜辺美波、戸塚純貴、アンミカ、秋元才加、野添義弘、長野里美、富田望生、西村瑞樹(バイきんぐ)、大水洋介(ラバーガール)、小澤雄太、福井夏、ひょうろく、松井慎也、佳久創、佐藤大空、野間口徹、シルビア・グラブ、菊地凛子、小池栄子、市原隼人、井上順、坂東彌十郎、小林薫ほか
脚本:三谷幸喜
主題歌:YOASOBI「劇上」(Echoes / Sony Music Entertainment (Japan) Inc.)
音楽:得田真裕
プロデュース:金城綾香、野田悠介
制作プロデュース:古郡真也
演出:西浦正記
制作著作:フジテレビ
©︎フジテレビ
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