『孤独のグルメ』とは正反対? 『野原ひろし 昼メシの流儀』大ヒットの理由を分析

 さまざまな話題作が揃った2025年秋アニメのなかでも、大きな注目を集めているのが『野原ひろし 昼メシの流儀』だ。ニコニコ動画で無料公開中の第1話は、2週間ほどで再生数100万回の大台を突破し、20万件を超えるコメント数を集めていた(※)。

 ネット上を熱狂の渦に巻き込んでいる原動力はどこにあるのか。本稿では同作が大ヒットしている理由について掘り下げていきたい。

 同作は、塚原洋一が手がける『クレヨンしんちゃん』の公式スピンオフが原作。しんのすけの父・野原ひろしが、仕事のあいまにいろいろな「昼飯」を堪能していくという設定だ。

 作中に登場するのはカツ丼や回転寿司、カレーなど、どこにでもある飲食店の料理だが、ひろしは全力のリアクションでそのおいしさを表現していく。さらにアニメでは料理を実写で映し出すパートが毎回挟まっていて、“飯テロ”的な要素が原作以上に強くなっている。

 とはいえ、昨今ブームを引き起こしている「飯モノ」作品のなかでも、同作は少々異彩を放っている印象だ。たとえば飯モノブームの火付け役となった『孤独のグルメ』と比べると、グルメへのこだわりがそこまで強くない代わりに全力でコメディに振り切った作風となっている。

 いい意味で“ゆるい”サラリーマンの日常を描いているため、視聴者が共感できるところが多く、ツッコミどころも満載。だからこそ、SNS上やニコニコ動画などで大きな盛り上がりを見せているのではないだろうか。

 そんな同作の面白さにもっとも貢献しているのは、間違いなく主人公のひろしだろう。必ずしも原作通りではないかもしれないが、独特のキャラクター性が加わったことで、シュールな面白さを生んでいる。

「野原ひろし 昼メシの流儀」 第1話 #YouTubeAnimeWeek

 たとえば同作のひろしは、かなり見栄っ張りな性格だ。アニメの第1話では、本格派の雰囲気が漂うインドカレー店に飛び込むのだが、カレーの辛さを選択するくだりで最初は下から2番目の「セミホット」を選ぼうとする。しかし近くにいた見知らぬ女性たちが「やっぱり男の人にはすごく辛いカレーを涼しい顔で食べてほしいよね」「辛いのに強い男の人って素敵ですよね」と語り合っているのを耳にして、一番辛い「ベリーホット」を注文。あまりの辛さに苦しむも、それを周囲に悟られないように悪戦苦闘する……という顛末を辿るのだった。

 この回に限らず、ひろしは脳内で勝手に自分を追い込んでは独り相撲を繰り広げていく。どうでもいいことに一喜一憂してばかりいる姿は、もはやコントのよう。マイペースな姿勢でひたすらグルメに没頭する『孤独のグルメ』の井之頭五郎とは、まるで正反対だ。

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