『ばけばけ』トミー・バストウが発する日本を感じる喜び 相変わらずの“岡部たかし劇場”も
小泉八雲が著書『知られぬ日本の面影』に神々の国の首都と記した松江の朝の風景。1894年に残された文章が鮮やかに表現された映像とともに、NHK連続テレビ小説『ばけばけ』第23話は幕を開けた。
遊郭の三味線の音に惹かれ、そのまま松江の街を練り歩いたレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)。高級旅館ではなく、花田旅館で一夜を過ごしたヘブンは、米をつく音で目を覚ます。外に出れば、どこかから鐘の音が響き、野菜を売る物売りの声、社に祈りを捧げる拍手の音が聞こえてくる。文化が変われば、生活が奏でる音が変わる。
日本文化を耳で感じていたヘブンを、次はオレンジ色の朝日と霧のコントラストが歓迎する。眼をつぶって聞き入ったり、ポカンと口を開けたりと、ヘブンは五感で美しい日本を感じていた。そんな感動を表現するバストウの表情からは、身体で感じる日本が面白くて仕方がないことが伝わってくる。
そんなヘブンの感動を松江の人たちは知るよしもなく。トキ(髙石あかり)は、再びなみ(さとうほなみ)から頼まれ、朝食を食べるヘブンを観察。探偵のフリをしてカッコつけるような視線や振る舞いを見せる。日本ではじめての朝食を摂るヘブンは、大量の生卵を一気飲みしたかと思いきや、小鉢に入った糸こんにゃくに対してひっくり返って怯え始める。本人はいたって真面目でも、その怯えようと花田旅館の女中・ウメ(野内まる)が食べてみせたときのドン引き顔には思わず笑ってしまった。のちに夫婦となる2人を演じる髙石とバストウのおちゃめな芝居の魅力が垣間見えるシーンだった。
ちなみに、基本的に日本食を好んでいた小泉八雲は、実際に「虫に似ているから」という理由で、糸こんにゃくが苦手だったそうだ。バストウが見せる一つひとつの芝居が、実際に八雲が日本文化に触れたときのリアクションなのかと思うと、興味深いものがある。
1日目と変わらず、ヘブンは松江の人々からの注目の的。ノリと雰囲気でコミュニケーションが取れそうな一番の人物・司之介(岡部たかし)が、牛乳を売りにきた。完全なる日本語で話しかけるが、なぜか「OK」と返され、20銭で牛乳を売ることに成功。司之介は、ヘブンの存在を面白がりながらも日本語がわからないからとぼったくり、握手も返さず、トキには「あまり近づくなよ」と釘を刺す。数分間の岡部たかし劇場には、異人への興味と偏見が詰め込まれていた。
日本の文化に戸惑い、コミュニケーションに戸惑うヘブンに振り回されているのが、ヘブンの面倒を見ている錦織友一(吉沢亮)だ。第22話ではコメディ調で描かれた錦織の板挟み状態だが、江藤県知事(佐野史郎)とのやりとりを見るに、裏に何か事情がありそうだ。とはいえ、勝手にヘブンの部屋の襖を開けないことが、錦織の美学なのだろう。
唯一、ヘブンとコミュニケーションがとれる錦織は、どのようにヘブンと距離を縮めていくのか。トキとの関係性の変化と合わせて注目したい。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK