『べらぼう』横浜流星「おっかさん」に込められた感謝と愛 知る喜びがエンタメの醍醐味に

自分の抜け殻が、いつか次世代を生きる誰かの光に……

 歌麿が言うように人が生きたあとに残るのは、その「抜け殻」だけなのかもしれない。どんな気持ちだったかはわからないけれど、たしかにそこに生きていたという抜け殻。ときには、そこから「気づかれたところで、いいことなんてない」と語られなかった“背景”の欠片が見つかることもある。そして、その欠片が次の時代を生きる者の創造力を呼び覚まし、孤独を埋めるのだ。

 もしかしたら松平定信(井上祐貴)も、一橋治済(生田斗真)も、この『べらぼう』では影のように描かれてはいるが、物語を抱えているのだろう。そんな 彼らの見えざる“背景”を想像することで、また新たな視点も養われる。楽しみながら、自分とは異なる他者の思いを「知る」。その視野の広がりこそが、エンタメの醍醐味だ。

 余談だが、耕書堂の女中・たか(島本須美)が、医者に診察されるのを嫌がるつよを「怖くない」となだめていたシーンに、思わず口角が上がった。それは、かつて島本が演じたナウシカ(映画『風の谷のナウシカ』)がキツネリスのテトをなだめるときの名セリフそのままだったからだ。「知る」ことが繋がると、こんなふうに人生がより豊かになっていく。そんなメッセージも含まれていたように思えた。

 語られた物語を受け継ぎ、語られなかった“背景”に思いを馳せる。そうして受け継がれていく儚くも尊い人の営み。『べらぼう』は雲母摺りのように光と影を抱えながら、見る角度を変えることで見えてくる“人の一生”の美しさを教えてくれる。

■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK

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