『シバのおきて』は「柴犬かわいい」だけのドラマじゃない “犬バカ”が共感を呼ぶ理由

 実在する柴犬専門雑誌編集部をもとに描かれたコミックを原作とした、犬をはじめとした飼い主たちのためのお仕事系ヒューマンストーリー、NHKドラマ10『シバのおきて~われら犬バカ編集部~』。第3話では、雑誌『シバONE』存続の危機をめぐる編集部での対立と和解が描かれた。

 “次の号が当たらなければ雑誌は廃刊、編集部も解散”という御手洗社長(勝村政信)からの無理難題が、石森(飯豊まりえ)たちにバレてしまった相楽(大東駿介)。開き直る彼に反発した清家(片桐はいり)、三田(こがけん)にボイコットされてしまうなど、かつて潰した『パチンコ帝国』と同じ末路をたどろうとしていた。一方、一番相楽と反りの合わなかったはずの石森は、すでに『シバONE』への愛着が芽生え始めていて、最終刊の3号は精魂込めようと決意する。石森にうながされるように相楽も清家と三田にぎこちなく頭を下げ、“今まで頑張ってくれた福助のためにも諦めたくない。思い切ってやり遂げよう”と皆再び心を一つにする。そんな中でひねり出したある企画が、まさかの展開を呼ぶことに……!

 第2話では「犬の気持ちは分かるんだ。人間の気持ちは分からないのにね」と、行きつけの喫茶店「ファンファーレ」オーナー(黒田大輔)にチクリと指摘されてしまった相楽。社内失業状態だった自分だけが救われたいというエゴのせいで、またもちりぢりになってしまう彼らを繋ぎ止めようとしたのは石森だったが、それもやはり福助の存在が大きかった。

 石森は滑沢先生(松坂慶子)との会話で「福ちゃんの優しさに救われた」と話す。すると滑沢先生は「犬って人間と違って邪な気持ちがないからね。犬は人と比べないし、周りの目を気にしない。そういうまっすぐな生き方にハッとするんじゃないかな」と、犬好きが犬に魅了される理由を一言で表現している。

 声を担う柄本時生の絶妙に気の抜けた穏やかな声も相まって、ダメな人間たちに呆れながらもずっと寄り添ってくれる福助は、癒やしであると同時に励ましてくれる存在だ。だからこそ相楽も、時として身勝手なふるまいで相手を遠ざけてしまっても、大事なところで踏みとどまることができるのだろう。最終号のために尽力した清家に、相楽が「ありがとう」と小さく言うシーンは今週のハイライトでもあった。

 まっすぐに生きる犬たちのために、人間たちができることは何か。第3話では犬の偏愛家、いわゆる“犬バカ”という言葉の本質を改めて考察している。「犬バカだよ! 全員集合!」の企画のひとつ、犬バカチェックリストで「重症」と診断された相楽だが、実は福助が嫌がる行動ばかり取っている。相楽のように「愛犬が困っている顔がかわいい」と思うままに、現実で困らせてしまう飼い主も世間には少なくない。「今一度、愛犬と自分との距離感を見つめ直しましょう」と鼻で笑う清家のセリフは耳に痛い限りだろう。

 かといって、編集部は“犬バカ”たちの深くストレートな愛を否定したり、揶揄するようなこともしない。恒例の「突撃!隣の柴ライフ」で登場するある飼い主は、愛犬のための重めの愛情ソングを朗々と歌い上げる。同じく“犬バカ”な相楽は心から感動し、福助に捧げる「福ちゃん音頭」なるものを作る。これらの歌詞はあまりに“犬バカ”が炸裂しているものだが、癖になるメロディラインはなかなかの完成度でもあるし、綴られた犬への率直な愛には思わず頬が緩んでしまう。

 考えてみれば、西洋犬に比べてやや素朴過ぎるイメージの柴犬を何とかキャッチーにするため、ギャグのようなコスプレを展開してきた相楽たちではあるが、犬たちを本気で愛し、犬たちにとって良き“犬バカ”となるための行動変容を全力で促す芯の部分では真面目なのだ。そんな姿が視聴者の共感を呼ぶことだろう。

 また、石森の実家である飲み屋の常連客から預かった柴犬・ひとみが新たな“主役”として加入するのも犬好きの心をくすぐる。姉御肌という性格だそうだが、声を担当するMEGUMI独特のハスキーボイスがサバサバキャラにピッタリだ。今週の出番は少なかったが、次週からの福助やボムといった全く性格の違うシバたちとの個性のぶつかり合いにも期待している。

■放送情報
ドラマ10『シバのおきて~われら犬バカ編集部~』
NHK総合にて、毎週火曜22:00~放送
出演:大東駿介、飯豊まりえ、片桐はいり、こがけん、篠原悠伸、やす、黒田大輔、水川かたまり、瀧内公美、勝村政信、松坂慶子ほか
声の出演:柄本時生、津田健次郎
原作:片野ゆか 『平成犬バカ編集部』
脚本:徳尾浩司
音楽:YOUR SONG IS GOOD
プロデューサー:内藤愼介(NHK エンタープライズ)
演出:笠浦友愛、木村隆文、加地源一郎、村田有里(NHK エンタープライズ)
制作統括:高橋練(NHK エンタープライズ)、渡邊悟(NHK)
写真提供=NHK

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