寛一郎、“信頼される俳優”としての存在感 『べらぼう』を経て『ばけばけ』で示す深化

 朝ドラ『ばけばけ』(NHK総合)のある風景が、私たちの朝のお茶の間に少しずつ馴染んできている頃だろうか。怪談好きの明るくて無邪気なヒロイン・松野トキ(髙石あかり)の存在が、早くも朝の顔として定着しつつあるように感じる。回を重ねるごとに愉快な登場人物たちが増え、これから本格的に彼女の人生の冒険がはじまろうとしているところ。そこへ、重要人物になるであろう山根銀二郎が登場した。演じているのは寛一郎である。

『ばけばけ』写真提供=NHK

 本作は、小泉八雲とその妻のセツをモデルとした物語を描いていくもの。『雪女』や『耳なし芳一』といった誰もが知る怪奇譚がどのようにして生まれ、広がり、語り継がれることになったのかを、私たちはこのドラマをとおして知っていくことになるのだろう。第2週「ムコ、モラウ、ムズカシ。」では、トキが結婚して婿を迎え入れることで貧しい生活から抜け出そうと、松野家の誰もがお見合いに必死に。その2組目の見合い相手として現れたのが、寛一郎が演じる山根銀二郎である。

 この銀二郎とは、鳥取県因幡の足軽の次男として生まれた青年。厳格な父の躾のもと、時代が変わっても武士としての生き方を貫いているらしいが、彼もまた貧しい環境で育ったのだという。変わりゆく社会に抗ってまでも武士の生き様を貫こうとする姿勢は、トキの父・司之介(岡部たかし)と祖父・勘右衛門(小日向文世)も同じ。司之介はトキのために髷を落としたものの、その精神は変わっていない。しかも銀二郎の趣味は、浄瑠璃や怪談ときた。彼ならば松野家でうまくやっていけるはずだ。

『ばけばけ』写真提供=NHK

 本作の公式ガイドブックである「NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 ばけばけ Part1」にて寛一郎は、「誠意があって洞察力に優れた男」だと銀二郎に対する第一印象を明かしている。私たちが銀二郎に対して抱いた印象も、まさにこれではないだろうか。柔らかな声をしているが、そこには重さがあるのが感じられる。丁寧に言葉を重ねていく彼の話し方は、周囲の者たちに安心感を与えるものだろう。観ているこちらもゆったりとした気持ちになってくる。

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