岡田将生「作品一つ一つが繋がっていく」 逆らってはいけない“流れ”の中で見つけたもの

 村上春樹の連作短編小説『神の子どもたちはみな踊る』(新潮文庫刊)を原作とし、NHKにて放送された4話構成のドラマ『地震のあとで』が。新たなシーンを加え、映画版ならではの編集で劇場公開されるのが『アフター・ザ・クエイク』だ。阪神·淡路大震災や地下鉄サリン事件が起きた1995年以降の日本を舞台に、人々の心模様を繊細に描き出す。

 『ドライブ・マイ・カー』に続き、再び村上春樹原作作品に挑んだのが、第1章の主人公となる小村を演じた岡田将生だ。彼はこの難解な世界とどう向き合い、何を表現しようとしたのか。20代の頃とは異なる俳優としての現在地、キャリアを通じて変化した仕事への意識、そして作品が自身の内面とどう共鳴したのかを、深く語ってくれた。

20代の時は“答え”を求めていた

――最初に本作の原作となった村上春樹作品との出会いから教えていただけますか?

岡田将生(以下、岡田):最初は『ノルウェイの森』だったと思います。その後に、濱口竜介監督作『ドライブ・マイ・カー』に出演して、そこで村上春樹さんの世界にハマって何冊か読んだ中に『神の子どもたちはみな踊る』もありました。だから自分の中では繋がっていたというか。企画をいただいたときに、村上さんの描く言葉が自分の中に自然と入ってくる感覚があったんです。村上さんの作品は、いい意味でずっと“体内に残っていく”感じがして、それが心地よく感じるときもあれば、どうしても払拭したいという瞬間もあります。今回も「難しいな」というのが正直な感想です。本当に答えがないんです。井上(剛)監督やスタッフの方々、俳優も、皆さんがすごく悩まれて作られた作品だと思うので、現場では「これはどういうことなんですか?」「皆さんどう思われますか?」とよく問いかけていました。皆さんそれぞれの意見を出してくれるんですけど、それが本当に全部違うんです。

――答えがない中で、どうやって役作りを?

岡田:答えがないからこそ、それをどう判断して監督と役を作っていくその作業はとても楽しいものでした。やはり苦しい時間もあるのですが、僕はそういう時間が割と好きなんだな、と改めて感じました。20代の時は“答え”を求めていて、直線的だったんです。でも、30代になってやっと思考に追いついてきて、「こんな生き方があったんだな」と、わからないことを一緒に楽しんで作れる方々といることが楽しいと感じるようになりました。

――今作で演じられた小村は、非常にフラットで「普通」な人物に見えました。役作りで意識したことはありますか?

岡田:本当に全てフラットにやろうっていうのを目標にやっていました。というのも、先ほど言ったように皆さん意見が違うので、僕が何かを作り込むよりも、皆さんから受け取ったもので小村という人物を形成しようと思ったんです。脚本を読んでいて、「からっぽ」という言葉がずっと心に残っていました。からっぽって決してマイナスではないと僕は思っているんですけど、どこかマイナスだと思っている自分もいる。その「からっぽ」や「空洞」といった余白感を大切に演じたいと、監督とも話していました。周りの登場人物がとても強烈なキャラクターばかりだったので、かえってフラットでいられた部分もありますね。

――井上監督の演出で、特に印象的だったことはありますか?

岡田:井上監督はものすごくこだわって、俳優やスタッフを信じて、限られた時間の中でこの作品のためにみんなで費やそうと引っ張ってくださる素晴らしい方でした。特に面白かったのが、セリフを一切なくしてリハーサルをしたことです。台本上のセリフって、時に説明的すぎることがありますよね。監督が「一回セリフなしでやってみよう」と言ってくださって試したら、不思議と言葉が浮かぶ感覚があって。言葉がなくても想いは伝わるんだなと。井上監督のことがものすごく好きになりました。

――本作は一度ドラマとして世に出ましたが、映画になったことで見え方は変わりましたか?

岡田:ドラマが映画になることで、エピソード一つ一つのつながりをすごく深く感じられました。実は、この1年弱で僕自身もプライベートで大きな変化があって、それによって結構見え方が変わったりしたんです。命の尊さ、儚さ、というのがより鮮明にこの映画を通して感じられました。人生ってこんなに変わるんだと思って面白いなと。だから、ドラマとして観たときとは別の面白さをまた感じました。この物語の深さを知れた感覚です。

――物語の始まりは1995年です。岡田さんにとってはまだ幼い頃だったと思います。

岡田:僕は記憶が曖昧だったので、母に当時のことを聞きました。どういう状況だったのかとか、「子供の僕が何か言ってたか覚えてる?」みたいな話をして。母にとっては忘れられない災害であったと話してくれましたし、そういう話をするだけで母との繋がりもちょっと変わりました。それはこの作品のおかげで、そうやって少しずつ、記憶や思いを紡いでいくことが、大切なことなのかもしれないなとも思いました。

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