『いつか、無重力の宙で』『舟を編む』『宙わたる教室』 “大人の青春ドラマ”なぜ増加?

 近年、NHK制作ドラマでは、大人になった人々を縛るしがらみを解きほぐすように、純粋さを追求する楽しさを思い起こさせてくれる物語が数多く制作されているように思う。

 NHK BSで放送されて好評を博したのち、待望の地上波放送となった『舟を編む 〜私、辞書つくります〜』では、大手出版社・玄武書房のファッション誌編集部から辞書編集部に異動となったみどり(池田エライザ)の視点から、何十年にもわたる「辞書作り」の大変さとおもしろさを多面的に描き出す。

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 辞書編集部に配属された当初は、並々ならぬ情熱で絶えず用例採集を実行する馬締(野田洋次郎)に翻弄されていたみどり。しかし、言葉の豊かさやおもしろさに触発され、どんどん辞書作りにのめり込んでいくにつれて、まるで部活に打ち込む学生のような真剣な表情と瞳の輝きを見せるようになる。そして、何より記憶に残っているのが、元・玄武書房の辞書編集部員だった荒木(岩松了)と日本語学者の松本(柴田恭兵)が長年築いてきた信頼関係だった。若かりしころと変わらない好奇心を持ち続けながら、誠心誠意に辞書作りと向き合うふたりの姿は、間違いなく“大人たちの青春”を体現している存在だと言えるだろう。

 さらに、人種や年齢、育ってきた境遇に左右されることのない“開かれた学び”と、同じ目標に向かって仲間たちとともに実験を繰り返す青春の日々を描いていたのが、2024年に放送されたドラマ『宙わたる教室』だ。定時制高校に理科教師として赴任してきた藤竹(窪田正孝)は、さまざまな事情から高校で学ぶことのできなかった生徒たちに、新しいことを知って視野が広がる楽しさを伝えていく。

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 ディスレクシア(読字障害)の症状を抱える岳人(小林虎之介)、夫と娘の後押しを受けて学校に通うアンジェラ(ガウ)、保健室登校を続ける佳純(伊東蒼)など、思い思いの悩みを抱える面々が集まった科学部。特に集団就職によって高校に行く道が閉ざされてしまった長嶺(イッセー尾形)が、年下である科学部のメンバーとともに学会での研究発表を目指す姿を観て、青春には時代や年齢は関係ないのだとあらためて思わせられた。

 かつては惑星科学の研究者として将来を渇望された藤竹もまた、科学の世界は特別な人間だけに与えられた特権ではないことを証明するために、生徒たちを理知的な温かい眼差しで見守る。「どんな人間でもその気にさえなれば、必ず何かを生み出せる」と信念を抱きながら、科学が持つ温かさを信じ抜いた彼も、生徒たちといっしょになって青春を満喫していたひとりだろう。

 『いつか、無重力の宙で』は、純粋な気持ちを追求する楽しさとともに、宇宙という壮大な夢が持つ“引力”を魅力的に映し出しながら、日々の忙しさに埋没しがちな“大人たちの青春”を描いている。飛鳥たちの打ち合わせを遠目に見つめて、「がんばってるよねぇ。青春だなぁ」と呟くファミレス店員のセリフにも、思わず相槌を打ってしまった。

 しかし、飛鳥らが足繁く通うファミレスの店員であり、宇宙工学の研究室に所属する大学生の金澤彗(奥平大兼)は、無我夢中に突き進もうとする4人の夢物語に一石を投じる。果たして彼らはこの先どのような道筋をたどって、遠く離れた宇宙へと近づいていくのだろうか。今は先の見えない不安よりも、ワクワクした気持ちが胸のなかで弾んでいる。

■放送情報
夜ドラ『いつか、無重力の宙で』
NHK総合にて、毎週月曜から木曜22:45~23:00放送
出演:木竜麻生、森田望智、片山友希、伊藤万理華、奥平大兼、田牧そら、上坂樹里、白倉碧空、山下桐里、鈴木杏、生瀬勝久
天の声(語り):柄本佑
脚本:武田雄樹
制作統括:福岡利武
音楽:森優太
主題歌:吉澤嘉代子「うさぎのひかり」
プロデューサー:南野彩子
演出:佐藤玲衣、盆子原誠、押田友太
写真提供=NHK

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