『いつか、無重力の宙で』『舟を編む』『宙わたる教室』 “大人の青春ドラマ”なぜ増加?

 現在放送中の夜ドラ『いつか、無重力の宙で』(NHK総合)で映し出されるのは、いつの間にかやりたいことを見失って、現状の生活に戸惑いを覚える人々の姿だ。そして、今ではもう思い出せなくなっていた、あのころの恐れを知らない無防備な夢に光を浴びせてくれるドラマでもあった。

 大人になるにつれて、まっすぐで純粋な思いにはさまざまな色が混じるようになる。仕事上の立場、家庭での役割。そして、何よりも時間の経過とともに滲み出すのは、残された人生を振り返ったときの後悔の色だ。

 時間がもったいない。失敗するのが怖い。しかし、そうして理想に掲げた場所へと向かう機会を後回しにしていると、いつしか子どものころに抱いた憧れの色がわからなくなっていく。目の前に山積みにされた課題を片付けることに精一杯になって、遠くの景色を見つめる余裕がなくなってしまう。

 『いつか、無重力の宙で』において、大阪の広告代理店で忙しない日常を送っていた飛鳥(木竜麻生)は、高校時代に同じ天文部だったひかり(森田望智)との再会をきっかけにして、あのときに誓い合った“宇宙への夢”にもう一度、手を伸ばす。

 しかし、13年の月日が流れたことで、30歳になった彼女たちが立つ場所や周囲の状況は大きく変化していた。同じく天文部でいっしょだった周(片山友希)は食品メーカーの営業として奔走し、晴子(伊藤万理華)は地元の市役所で働きながら、ひとりで小学生の息子を育てるシングルマザーに。飛鳥やひかりが立っている場所も、決して自由に手足を伸ばせる空間ではない。息苦しくて窒息してしまいそうな小さなやりとりが各所で映し出され、うまく飲み込めない不安が澱のように心の底に溜まっていく。

 実際、社会人として働いている人ならば、彼らの会話の節々に既視感を覚える人が多いのではないだろうか。断れない上司からの頼み、気の抜けない仕事の電話。愚痴や悩みを共有するために複数人で集まろうとしても、なかなか全員の予定は合わない。買ったことをすっかり忘れていた宝くじに、一縷の望みを託してしまうことだってあるだろう。

 天文部の4人がそれぞれ別々の道を歩むなかで、彼らにのしかかる“重力”は日に日に重みを増していく。それでも、一度、思い出してしまった憧れの夢は、簡単には消えることのない光を帯びているものだ。飛鳥の力強い意思とひかりのしなやかな思いが、彼らの過去と現在を照らし合わせ、宇宙への夢を乗せた「人工衛星の開発」へと導いていく。2度目の青春を謳歌する4人の姿は、ちょっと羨ましいほどに眩しかった。

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