『ばけばけ』明治期の動乱が描く“現代性”とは? ふじきみつ彦の“悲しみに寄り添う物語”

 意外だったのは、ふじきが手がける朝ドラが“時代モノ”だったことだ。過去作を振り返ってみても、メインは現代劇。ふじき作品のシュールな作風と時代ものが結びつかなかったのだが、実際に『ばけばけ』を観ると、トキたちが懸命に生きていた時代と私たちが生きる今には、どこか通ずるものがある。

 幕末から明治は、歴史の授業では文明開化で華やかなイメージで語られることも多い。だが、市井の人々は否応なく大きな変化を求められた。かといって、立ち上がったばかりの政府は不安定で、身を委ねられそうな状態ではない。教師が幼いトキ(福地美晴)たちに「この先何になるか、野垂れ死にせんよう今のうちから考えちょくように」と説いていたように、生き延びる術は自分たちで見つけなければならない。死なないために何者かになることを求められた時代だったのだ。

 トキの父・司之介(岡部たかし)や勘右衛門(小日向文世)が守りつづけた“武士道”は、現代で言うところのロマンであり、アイデンティティとも言えるだろう。その価値観に拘らず、時代の波にうまく乗った傳(堤真一)のような人もいれば、あえて逆行しようとするタエ(北川景子)のような人もいる。雨清水家のような上流家庭であれば多少の抵抗はできたかもしれない。しかし、多くの人々は司之介のように、プライドをへし折って、生き延びる道を模索したのではないだろうか。

「おトキちゃんはうらめしいことがあると、怪談をせがみました」
「でも、この日ばかりはうらめしさばかりが募るのでした」

 第4話、大きな衝撃に直面したトキは、フミ(池脇千鶴)に涙ながらに怪談話を求める。モデルとなったセツが怪談を好んだ理由は明確にはわかっていないらしいが、ふじきのインタビューによれば、『ばけばけ』チームは、トキにとっての怪談を“自分の悲しみに寄り添ってくれるもの”と捉えることにしたという。もしかしたら、私たちにとって『ばけばけ』がいつかそうなるのではないか。そんな期待を感じた第1週だった。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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