『ばけばけ』岡部たかし&池脇千鶴夫婦も見逃せない トキとヘブンに引き継がれる生き様

 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』は、主人公・松野トキ(髙石あかり)の怪談語りから始まった。お題目は、『耳なし芳一』。もっとも有名な怪談噺のひとつである。トキの語りがやけに達者で、夫・ヘブン(トミー・バストウ)は引き込まれるように聞き入っている。

 ヘブンのモデル、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)は、トキのモデル、小泉セツとのこのような二人三脚で多くの著作を残したのだろうな。そんな想像がふくらむ、秀逸かつ温かみのある導入場面だ。

 オープニングは、ハンバート ハンバートの優しい歌声に乗せて、トキとヘブンが実にいい顔で笑っている静止画が続く。特に髙石あかりの笑顔がすばらしい。営業用スマイルとは真逆の、あまりにも自然かつ写真写りさえも気にしていないかのような、弾ける笑顔である。本当に好きな人といるときにしか、出ないであろう笑顔だ。第1話が始まってまだ数分しかたっていないにもかかわらず、希望がどんどんふくらんでしまう。

 そして、オープニングが終わると、丑の刻参りが行われていた。ふくらんだ希望がみるみるしぼむ。また珍しいことに、家族総出での丑の刻参りである。幼少期のトキ(福地美晴)、トキの祖父・勘右衛門(小日向文世)、トキの母・フミ(池脇千鶴)、そして釘を打つのは、トキの父・司之介(岡部たかし)だ。

 元は上級武士であった松野家だが、明治の世となり、武士の時代は終わり、貧乏暮らしを余儀なくされている。司之介が呪うのは、特定の誰かではない。武士の世を終わらせた薩摩や長州ら新政府や、新時代にいち早く迎合したざんぎり頭の輩たちである。だがそもそも彼らの属した松江藩は、戊辰戦争では新政府側についたのだ。逆恨みが過ぎる。釘を打つ姿勢はへっぴり腰で、槌も釘の芯をまったく捉えていない。刀を振っていた元・侍とは思えない。侍であった己にこだわるあまり、いまだに無職であるにもかかわらずだ。

 第1話を観る限り、安定の岡部たかしである。ダメな父親を演じさせたら、彼の右に出る者はいない。2024年度前期の朝ドラ『虎に翼』での、主人公・佐田寅子(伊藤沙莉)の父親・猪爪直言役も記憶に新しい。気が弱くも優しい娘思いの父親であったが、寅子の夫・優三(仲野太賀)の戦病死を隠していたがため、病で長くない身であるにも関わらず、娘に冷たくあしらわれる。自業自得とは言えかわいそうなシーンだったが、最期は泣き笑いを誘うような死を遂げるあたり、得なキャラクターではある。

 ちなみに、その前作の朝ドラ『ブギウギ』での役名は、「アホのおっちゃん」であった。このコンプライアンスのうるさい令和の時代に、そんな坂田利夫師匠みたいな役名をつける勇気を称えたい。劇中でも、当然のように「アホのおっちゃん」と呼ばれていた。「アホのおっちゃん」というあんまりな役名のアンサンブルのひとりから、ヒロインの父親役、しかも2回目というのは、なかなかの出世ぶりだ。ずっとバイトをしながら芝居を続け、役者だけで食えるようになったのはつい最近という、彼自身の人生ともオーバーラップする。

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