韓ドラ好きが『あんぱん』に夢中になった理由 “国民的キャラ”を朝ドラに織り込む仕掛け
平日に1話15分とはいえ、完結までに100話を超えるNHKの連続テレビ小説。小さい頃は母親が観ているものを、気が向いた時にちらっと観る程度だった。ドラマ好きとして「朝ドラを毎日観よう!」と挑戦したが、1話見逃してしまってからはついていけなくなってしまったこともある。そんなこんなで朝ドラとは少し遠いところにいた筆者だったが、今回の『あんぱん』は初めて“完走”できそうだと感じられる、継続して観続けられている朝ドラとなった。
筆者は普段、1話1時間強で全16話ほどの韓国ドラマを観ることが多く、1話ごとにじっくり描かれる物語展開に慣れていた。一方で朝ドラは、15分の中に1つのドラマを見出していて、なおかつそれが1週間ごとに大きなストーリーの塊となっている。テンポがよく、物足りなさも感じさせないその1話の厚みが新鮮で、魅了されたことがここまで欠かさず観ることができた理由の1つだと考える。
そのほかにも理由はいくつか思い当たるが、まず言えるのは「アンパンマン」というキャラクターに、生まれた時からずっと親しみを持ってきたからだろう。日本に住んでいれば『それいけ!アンパンマン』を避けて幼少期を過ごすことの方が難しい。それほど当たり前にいた存在で、だからこそ「どう生まれたのか」というストーリーに引き込まれていった。また、主人公ののぶ(今田美桜)、蘭子(河合優実)、メイコ(原菜乃華)はそれぞれ赤、青、緑の服を着ていることが多く、母親(江口のりこ)も「羽多子」という名前でどこか聞き覚えがある……。登場人物が『アンパンマン』のキャラクターに通じる点があるように感じられて、考察要素が多かったのも面白く観ることができた1つの理由だった。
また、自分が感情移入できるキャラクターが多かった点も大きい。のぶは無鉄砲なキャラクターだが、明るく前向きで元気をくれる存在。蘭子は冷静沈着で、自分の感情を抑え込むところがあるが志は高い。メイコは天真爛漫で少し不器用だ。それぞれ3人は、大志を抱いて高知から東京にやって来たところだけは同じだが、仕事も性格も異なる人生を歩んできた。さらに、自分の考えを強く伝えられない嵩(北村匠海)や責任感が強い千尋(中沢元紀)など、本当に様々な性格の人たちが登場するからこそ、自分と同じような悩みを持ち、前に進んでいくキャラクターを誰か一人見つけることができ、その心情に寄り添うことができた。特に筆者はフリーの文筆業をしているから、蘭子や嵩の境遇や言動に励まされることが多かった。自分の生き方をこの時代とキャラクターに当てはめ、その人生を見守るという特別な体験ができたように思う。
そして彼らの人生だけではなく、彼らが発する言葉が名言となって自分の胸に刻まれている。その中でも、「何のために生まれて、何をして生きるのか」という言葉はいつまでも忘れないだろう。親しんでいた「アンパンマンのマーチ」の歌詞の一部なのに、大人になったらこれほどまでに沁みるのか……という驚きもあった。
また、のぶの人生を垣間見ているうちに、周りにいた人がいなくなって再び新しい人と出会う、その繰り返しが人生なのだということを実感し、自分の人生とも重なり合って、毎話涙目になりながら観ていた。これこそが1人の生涯を描く朝ドラの面白さなのだろう。さらに、半年間という長い間、出演している役者陣の演技をずっと観てきたからこそ、細かな目線や声のトーンで少しの変化にも気が付くことができた。時間の移り変わりもメイクや衣装だけでなく、表現で感じる場面も多々あって、10話で構成される連続ドラマや映画では感じ取りきれない俳優陣の底力が垣間見えた。そして、後半に進むにつれて、20代の俳優たちを中心に物語が構成されていくのを観て、これほどまでに深みのある表現ができる人たちが同世代にいるのだなと、勝手ながら一視聴者として嬉しくなった。
きっと筆者はこれからも朝ドラを観続けることになるだろう。そのきっかけを与えてくれた『あんぱん』は数ある映像作品の中でも拠り所として心に残り続けるはずだ。ついあんぱんが食べたくなって近所のパン屋に走ったこともあったが、これからはあんぱんを食べるたびにこのドラマを思い出すだろう。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK