『ちはやふるーめぐりー』が提示した新たなヒロイン像 コスパ主義は克服すべきものか?

コスパ・タイパは克服すべきものなのか

 新たなヒロイン像の誕生をうけ、個人的にはコスパ・タイパ主義を内包した、今までにはない解を見出すアプローチを期待していた。

 しかし、物語が進みにつれて当初の設定である「コスパ・タイパ主義」のキャラ設定は置き去りにされた印象も否めない。怪我を負った仲間のために頑張ろうという友情や、映画版のキャストである広瀬すずや野村周平、松岡茉優らの再登場など「エモさ」に重きが置かれていると感じた。「コスパ・タイパ主義」とは克服すべき姿勢であり、「感動」「絆」「友情」こそが大事であるというメッセージとも解釈できる。

 最終話の「最終首 なにわづに」で、めぐるの属する梅園高校は宿敵・瑞沢高校に惜敗する。しかし、全力を出し切っためぐるの表情はどこか晴れやかで、ともに闘ってきた仲間を見て「そういうこと? ずっとここにあったじゃん。私が探してたもの」という思いに至る。

 本作は「仲間と全身全霊で何かに打ち込むことこそが青春で、コスパ・タイパ主義は乗り越えるべきものである」とでも言うような価値観を描ききった。欲を言えば、部活をはじめとする「青春」に没入できない自分に葛藤を抱きつつも、コスパ・タイパ主義を内包して努力していたかつての藍沢めぐるの人生が、その道の中で救われるにはどうすればよかったのかという問いも深掘りしてほしかったところだ。

 友情や絆が大切であることは自明である。ただ、損得勘定も人生において重要な要素であることは明らかで、特に情報や選択肢に溢れる現代では「コスパ・タイパ主義」をライフハックとすることの重要性はますます高まるばかりだ。

 本作は青春ものとして傑作で、當真あみ、原菜乃華、齋藤潤といったフレッシュな顔ぶれの瑞々しい演技や、映画版のメインキャストであった広瀬すず、上白石萌音、野村周平らが信頼できる大人として後輩たちを教え導く描写に心打たれた人は多いのではないだろうか。

 完成度が高いからこそ、コスパ・タイパ主義を単なる克服すべき価値観として描くのではなく、その価値や意味を再定義するようなアプローチも多少観てみたかったというのが筆者の本音である。

 『ちはやふるーめぐりー』は従来の王道青春もののフォーマットを踏襲するのみならず、これまでのヒロイン像に一石を投じた傑作でもあった。本作を起点に、今後のドラマ界がヒロイン像をどのようにアップデートしていくのか目が離せない。

ちはやふる-めぐり-

2016年から2018年にかけて公開された映画『ちはやふる』シリーズの10年後の世界を舞台にした作品。廃部の危機にある梅園高校・競技かるた部の藍沢めぐるが、顧問として赴任してきた大江奏と出会い、成長していく。

■配信情報
『ちはやふる-めぐり-』
TVer、Huluにて配信中
出演:當真あみ、原菜乃華、齋藤潤、藤原大祐、山時聡真、大西利空、嵐莉菜、坂元愛登、高村佳偉人、橘優輝、石川雷蔵、瀬戸琴楓、髙橋佑大朗、藤枝喜輝、大友一生、漆山拓実、上白石萌音、内田有紀、要潤、榎本司、富田靖子、高橋努、波岡一喜、髙嶋政宏
ショーランナー:小泉徳宏
監督:藤田直哉、本田大介、松本千晶、吉田和弘
脚本:モノガタリラボ(小坂志宝、本田大介、松本千晶)、金子鈴幸
プロデューサー:榊原真由子、巣立恭平、中村薫、平田光一
企画・プロデューサー:北島直明
チーフプロデューサー:松本京子
音楽:横山克
主題歌:Perfume「巡ループ」(UNIVERSAL MUSIC LLC)
制作協力:ROBOT、ウインズモーメント
©日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/chihayafuru-meguri/
公式X(旧Twitter):https://x.com/chihaya_koshiki

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