『光が死んだ夏』『薫る花は凛と咲く』など 2025年夏アニメで光った“異例のヒット作”4選

 2025年夏アニメは、人気シリーズの続編が数多く並ぶまさに“覇権の季節”だった。『ダンダダン』第2期や『怪獣8号』第2期、『その着せ替え人形は恋をする Season 2』など、開幕前から注目度ランキングを席巻する作品ばかり。ファンの期待を裏切らない続編が揃うなかで、正直今期は覇権争い一辺倒かと思ったほどだ。

 だが、いざ蓋を開けてみると、これは期待以上にヒットしていると感じさせられるタイトルがいくつも現れた印象だ。再生数や口コミの盛り上がりもさることながら、視聴していて自分の心に深く残った作品たち。ここでは、その中から特に印象に残った4作をピックアップして紹介したい。

ABEMA再生数ランキング第1位『光が死んだ夏』

【光が死んだ夏】第八話『接触』|WEB予告

 第1話を観たときのあの空気感は忘れがたい。田舎の夏らしい強い日差しや、草むらの湿気までもが画面を通して伝わってくる。そこで描かれるのは派手なバトルでも残虐なシーンでもなく、ただじわじわと侵食してくる違和感だ。親友が「ナニカ」に成り代わって戻ってきてしまったという事実を抱え込む少年・よしきの視点は、観る者に説明の余地を与えず、理解できない恐怖へと導いていく。

 SNSで「考察が止まらない」と話題になったのも納得だ。筆者も視聴後に思わず他人の感想を読み漁ってしまった。因習的な閉塞感や得体の知れない恐怖が、モクモクれん作品特有の空気感として表現され、それをアニメの画作りが一層際立たせていた。

『光が死んだ夏』で縮まった小林千晃&梅田修一朗の“心の距離” アフレコ秘話を明かす

現在放送・配信中のTVアニメ『光が死んだ夏』は、『このマンガがすごい!2023』(宝島社)オトコ編第1位に輝いたモクモクれんの同…

 商業的にも異例の成功だ。原作漫画はアニメ化前にすでに350万部を突破していたが、放送後は一気にライト層にまで拡大。ABEMAでは『ダンダダン』を抑えて再生数1位に輝いた(※1)。派手なマーケティングではなく、口コミとファンの熱量が生んだ成果であり、“デジタル世代の代表作”と呼ぶにふさわしい作品だ。

国内外で評価を集める『薫る花は凛と咲く』

TVアニメ『薫る花は凛と咲く』 WEB予告動画 第9話「金髪とピアス」

 正直に言えば、放送前はよくある恋愛アニメのひとつと思っていた。だが実際に観ると、その印象は一瞬で覆された。見た目は怖いが心優しい男子・凛太郎と、名門お嬢様校に通う薫子との交流。その物語は王道中の王道だが、CloverWorksの手によって描かれる表情や仕草のひとつひとつが、圧倒的な説得力を帯びている。

 特に印象的なのは“言葉にならない瞬間”だ。ふと視線を逸らす、笑顔になりかけて止まる、その一瞬の揺れに心を掴まれてしまい、気づけば第1話の時点で完全に虜になっていた。こうした繊細な演出が支持を集めている背景には、過剰な刺激や派手な展開ではなく“日常に潜む感情のリアリティ”を求める視聴者の潮流がある。アニメ市場が多様化するなかで、王道の恋愛ものがここまでの存在感を放ったこと自体、時代の空気を映す象徴的な現象だと感じる。

 さらに物語は二人の恋愛にとどまらない。凛太郎の仲間たちや薫子の友人にも焦点を当てることで、友情や偏見の壁を越える人間関係が厚みを増している。海外の評価も高く、世界最大級の日本アニメ・マンガのデータベースおよびコミュニティサイト・MyAnimeListで上位を独走するなど、ジャンルの壁を越えて世界に届いた(※2)。アクションやファンタジー一辺倒に見える市場において、純愛がこれほどの力を持つことを証明したのは本作の功績だろう。

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