『ジュラシック・ワールド/復活の大地』は何を再生しようとしたのか 前シリーズとの違い

D-REXの存在意義

 そんなふうに恐竜を自然な生物として強調する一方で、本作のクライマックスを担うのはディストータス・レックス(D-REX)やミュータドンという“怪物(モンスター)”である。アニマルパニックからモンスターパニック、いや怪獣映画にジャンルスイッチされるわけで、正直恐竜ファンからすれば困惑する存在だ。ラストのビッグシーンを恐竜ではなく、彼らに託したことへの不満も理解できる。しかし筆者としては、D-REXこそはっきりと存在が描かれるべきだった、シリーズにおける“膿み”のように思えるのだ。

 これまでの『ジュラシック・ワールド』でも、インドミナス・レックスやインドラプトルなど遺伝子が組み合わさったオリジナル恐竜は登場してきた。D-REXも、彼らと何ら変わりはない。彼らがより恐竜的でエンタメに適した見た目をしていただけなのだ。

「世間はもっと大きく、歯の多い恐竜を求めている」

 『ジュラシック・ワールド』の劇中、クレアはインドミナス・レックスを生み出した背景として、そのような説明を取引先にしている。クレアのその後の説明を振り返ると、あの時点ですでに恐竜が蘇ってから20年たち、子供にとって恐竜は動物園にいるゾウと同じ存在になっていた。そして世間の関心や興味を保とうとしたインジェン社は、本シリーズの製作であるユニバーサル社に重なっていく。キャラクターの行動理念や背景はさておこう、広げてしまった設定も面倒なら放置しよう。より多くの恐竜を出して、より派手な演出をすればいい。そういったフランチャイズ映画の“功罪”や成れの果てを暗喩するかのように、D-REXは本作で醜い怪物として登場する。その存在は物語に爽快感をもたらすためではなく、不安と違和感を増幅させるために機能する必要があった。

 本作がスピルバーグから脚本家のコープにかかってきた「また恐竜映画をやりたいと思わないか」という電話のやり取りがきっかけで生まれた作品であること、その経緯は映画を語る上で無視できない。そしてコープとスピルバーグの会話の中で生み出されたD-REXという存在は、改めて恐竜を人間の欲望やビジネスのために“改造し続けること”の愚かさを暴き出す役割を担っている。インドミナスレックスがカッコよくできただけで、その影には会社がビジネスのための欲を優先させた結果として生み出された醜く、物悲しい存在があった。その悲壮感がD-REXの魅力であり、どれだけオモチャが売れなさそうな見た目をしていても、恐竜映画を乗っ取るかのように登場した怪物でも、その存在は『ジュラシック・パーク』で警鐘された人間の傲慢さを映す鏡として大切な意義があると感じるのだ。だからこそ、その存在を蔑ろにしてはいけないように思える、ちゃんと見つめていたい“生命”なのだ。

何を“再生”させたのか

 観客の一部からは「退屈」「もっと“恐竜”が活躍してほしかった」という声があり、別の層には「久々に“恐竜の恐ろしさ”を思い出した」と評価する声が上がるなど、賛否両論だった本作。最後に、改めて言語の副題「Rebirth(リバース)」について考えたい。

 「再生」や「生まれ変わり」の意味を持つこの単語と共に、新章であり前シリーズから一新された世界観の本作に、あえて『ジュラシック・ワールド』のタイトルがつけられたのは、このシリーズそのものをエドワーズ監督とコープが「自分だったらこうしていた」という彼らなりの“仕切り直し”だったからではないだろうか。新章というくらいだから、今後も作品は作られるのだろう。恐竜が世界にとき放たれた、「ジュラシック・ワールド」という設定が『新たなる支配者』ですでに描くことを放棄されてしまったため、そこをもっと観たかった者としては今後の作品がアニメシリーズのように作品と作品の間のタイムラインを描くものであることを期待するしかないかもしれない。 また、『復活の大地』の直接的な続編となる場合、島に取り残されたD-REXに登場人物たちがしっかり向き合うようなプロットにも意味がありそうだ。

 観客が長年の続編で慣れてしまった“動物園の中にいる恐竜”の檻を一度壊し、彼らを自然にかえすこと。人間の物語を補強しながらも、最後には「生命をコントロールすることはできない」という気づきに突き当たること。そしてその脅威は、我々人間が科学技術をもってして自ら生み出してしまったものであること。その愚かさと罪への自覚。スピルバーグの第1作が描いた原点を、『復活の大地』は“再生”させようとした。それを伝えるためにこの作品で描かれたものの多くが個人的には意味があり、成功していると感じる。しかし、少女によって島から連れ出されたドロレスの今後(その生存と、再びアイドル化されそうな未来)の行方を心配してしまうのも事実ではあるのだった。

■公開情報
『ジュラシックワールド/復活の大地』
全国公開中
出演:スカーレット・ヨハンソン、マハーシャラ・アリ、ジョナサン・ベイリー、ルパート・フレンド、マヌエル・ガルシア=ルルフォ、ルナ・ブレイズ、デヴィッド・ヤーコノ、オードリナ・ミランダ、フィリッピーヌ・ヴェルジュ、ベシル・シルヴァン、エド・スクライン
監督:ギャレス・エドワーズ
脚本:デヴィッド・コープ、マイケル・クライトン
キャラクター原案:マイケル・クライトン
製作:フランク・マーシャル、パトリック・クローリー
製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ、デニス・L・スチュワート、ジム・スペンサー 配給:東宝東和
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公式サイト:https://www.jurassicworld.jp/
公式X(旧Twitter):https://x.com/jurassicworldjp

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