『ジュラシック・ワールド/復活の大地』の“演出術”を紐解く スピルバーグの継承と逸脱
一方のギャレス・エドワーズは、“隠蔽”によって恐怖を生む。島に辿り着いたクルーのひとりニーナ(フィリッピーヌ・ヴェルジュ)が、浜辺に潜んでいたスピノサウルスの餌食になる場面を思い出してみよう。彼女は海から巨大な荷物を引き上げ、その後ろに移動する。スピノサウルスもその背後に回り込む。荷物が巨大な遮断物となって、観客からはその背後が“不可視”の状態となる。そしてニーナの絶叫が響き渡り、彼女は絶命する。
これは、『ジュラシック・パーク』が恐竜の影や足跡を未知の予兆として用いた手法と、逆の機能を果たすものだ。スピルバーグはあくまで、不可知なものを見えないままにする。対してギャレス・エドワーズは、すでに恐竜の存在を把握している観客から、見えていたはずのものを隠すことで、緊張を高めていくのだ。
この“隠蔽”の演出が最も高揚するのは、ルーベンの長女テレサ(ルナ・ブレイズ)がゴムボートを取りにいく場面だろう。すぐそばには、昼寝をしているティラノサウルスがいる。しかし、決死の覚悟でゲットしたボートが自動的に膨張すると、恐竜の姿は完全にスクリーンから遮断される。ここでも、既知の恐怖対象は見えないものとして再提示されている。
オリジナルの引用、徹底した“隠蔽”サスペンス
ルーベンの末娘イザベラが、ゴムボートがひっくり返った状態でティラノサウルスに攻撃される場面は、明らかに『ジュラシック・パーク』でツアー車両に取り残されたレックスとティムが襲われるシーンを反復している。だがよくよく考えてみれば、これはスピルバーグがいつもの“遅延”ではなく、“隠蔽”によって恐怖を高めていた象徴的場面。この時点でティラノサウルスはすでに姿を現しており、未知の存在ではなかったからだ。
スーパーマーケットに逃げ込んだ一行が、異形の恐竜(ミュータント)に襲われる場面もまた、『ジュラシック・パーク』のキッチンでヴェロキラプトルが襲撃するシーンを踏襲している。冷蔵庫に隠れたイザベラからは敵が見えるが、恐竜からは彼女を認識できないマジックミラー的状況は、攻守を入れ替えた“隠蔽”演出の亜種。ギャレス・エドワーズはオリジナルを引用しつつ、この作品が徹底的に“隠蔽”の映画であることを高らかに表明している。そして筆者はその一点において、『復活の大地』が傑作であることを確信しているのだ。
ヘンリー博士は「誰も恐竜に興味ない」と口にしたものの、本作は世界中で大ヒット。現時点で興行収入は10億ドルを突破し、日本でも現時点(8月27日)で動員248万人、興行収入38億円を記録している。人間たちと恐竜の共生の物語は、まだまだ続く。口をあんぐりと開けてブラキオサウルスを見上げるようなCGの感動はないかもしれないが、作り手の創意工夫と演出の妙によって、これからもこのシリーズはセンス・オブ・ワンダーを紡いでいくだろう。
■公開情報
『ジュラシックワールド/復活の大地』
全国公開中
出演:スカーレット・ヨハンソン、マハーシャラ・アリ、ジョナサン・ベイリー、ルパート・フレンド、マヌエル・ガルシア=ルルフォ、ルナ・ブレイズ、デヴィッド・ヤーコノ、オードリナ・ミランダ、フィリッピーヌ・ヴェルジュ、ベシル・シルヴァン、エド・スクライン
監督:ギャレス・エドワーズ
脚本:デヴィッド・コープ、マイケル・クライトン
キャラクター原案:マイケル・クライトン
製作:フランク・マーシャル、パトリック・クローリー
製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ、デニス・L・スチュワート、ジム・スペンサー 配給:東宝東和
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