『ハンドメイズ・テイル』を最終章に向けて徹底総括 “ディストピア”が鳴らす現代への警鐘
ファイナルシーズンが描く“反乱”の意志
ELISABETH MOSS, YVONNE STRAHOVSKI
ジューンとセリーナの関係は、不思議で複雑だ。セリーナはなかなか正体がつかみにくく、ジューンにつらくあたる一方で、シーズン2ではある侍女が起こしたテロによって負傷したフレッドに代わり、ジューンと協力して夫の仕事を秘密で代行したり、女性の権利拡大を訴えた罰として小指を切り落とされたりしている。そもそも彼女はギレアド建国にも関わっていたが、女性であることを理由に排除されたことがシーズン1で明らかになっている。彼女の行動はジューンや女中のリタ(アマンダ・ブリューゲル)とのシスターフッドを思わせるシーンもあるが、ジューンやリタからすればセリーナは支配する側の人間であり、加害者なのだ。しかし視聴者には、それだけでない一面も見えてくる。ギレアドでは一見何不自由ない生活を送っているように見える「妻」たちも、読み書きなどは制限され、特にセリーナは愛する夫に触れてすらもらえないというストレスも抱えていた。女であることが理由で苦しむ彼女にとっては、侍女や女中も同じ女性同士、必要があれば連帯できる仲間に思えていたのかもしれない。セリーナの厄介な性質は、彼女がもともと狂信的なキリスト教原理主義者であることが根底にあると思われる。
ジューンは一時期その命を狙うほどセリーナを憎んでいたが、シーズン5では彼女の出産を手伝っている。セリーナの出産直後の2人の様子は、友人同士に見えるほど親密だ。セリーナとジューンが近づくとき、もっとも重要な共通点は、2人とも「母親」という役割に良くも悪くも執着していることだ。ジューンがウォーターフォード家の侍女だったとき、彼女が妊娠したと思い込んだセリーナは、人が変わったように優しくなった。それは彼女が心から子どもを望んでいたからで、自身が妊娠・出産したときの喜びは計り知れなかっただろう。一方ジューンにとっては、自分がハンナ、そしてニコールの母親であるということがアイデンティティの重要な部分を占めている。「子ども」のためであれば、2人は手を取り合うことができるのだ。シーズン5最終話では、ニコールを連れたジューンと息子のノアを抱いたセリーナが、難民キャンプに向かう列車のなかで再会した。苦しんだ女性同士、仲間になれると思っているセリーナと、彼女への恨みを晴らしきれていないジューンの関係は、最終シーズンでどのように変化するのだろうか。
TIMOTHY SIMONS, MAX MINGHELLA, BRADLEY WHITFORD
また、女性差別を中心に現実世界と地続きの地獄を描いてきた『ハンドメイズ・テイル』だが、ジューンがカナダに亡命したシーズン4以降は、今世界中で問題になっている移民・難民に対する差別も描いている。原作者のマーガレット・アトウッドも製作に参加している本作は、現代に合わせたアップデートが施され、フィナーレに向けてさらに目が離せない。
ジューンは誰に対しても逃げることを許さない。シーズン1で登場し、シリーズのスローガンのようになった「奴らに虐げられるな」の言葉通り、彼女は虐げられてきた侍女たちにさえ戦いから逃げることを許さない。だからこそリーダーとして侍女たちの反乱を率い、ローレンスを変え、フレッドを始末し、セリーナを追い詰めた。『ハンドメイズ・テイル』はファイナルシーズンに突入するが、フィナーレを迎えるころには、私たちにも逃げずに戦う強さを与えてくれるのではないだろうか。
■配信情報
『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』ファイナルシーズン(シーズン6)
Huluにて見放題独占配信中(毎週金曜に1話ずつ配信)
シーズン1〜5全話見放題配信中
出演:エリザベス・モス、イヴォンヌ・ストラホフスキー、ブラッドリー・ウィットフォード、マックス・ミンゲラ、アン・ダウド、O・T・ファグベンル、サミラ・ワイリー、マデリーン・ブリューワー、アマンダ・ブルジェル、サム・ジェーガー、エヴァー・キャライン、ジョシュ・チャールズ
原作:マーガレット・アトウッド 『侍女の物語』(早川書房)
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