『ダンダダン』“HAYASii”ライブシーンが予想外の反響 アニオリ演出が引き出した作品の魅力

 原作の龍幸伸もまた、異質な要素同士をぶつけ合う物語を描いてきた。そこには“何でもあり”の精神と、新しい刺激を貪欲に取り込む姿勢がある。昭和のコメディ、平成のゲーム文化、令和のSNSミームまで、作品世界には複数の時代が同居する。高倉健の名ゼリフ「ジブン不器用なんで」や、『スラムダンク』のED曲で大黒摩季による「あなただけ見つめてる」を取り入れたり、さらにはターボババアやカシマレイコといった都市伝説の融合など、こうした参照の積み重ねが、キャラクターの輪郭や感情の奥行きを自然に深めてきた。

 興味深いのは、これらの参照が単発で消費されるのではなく、キャラクター造形や物語の重要な局面に絡み続けることだ。モモの高倉健好きは、彼女の誠実さや芯の強さを示し、星子の『バカ殿』好きは、昭和的なユーモアと人情、バトルの最中に挟まれるゲームやアニメの引用は、キャラクターたちの等身大の若さと遊び心を感じさせる。

 HAYASiiの一件は、こうしたオマージュ文化の両義性を可視化したと言えるのではないだろうか。視聴者にとっては「元ネタがわかる楽しさ」があり、制作者にとっては物語と現実を結びつける手段にもなる。だが、現実の有名人や団体を強く連想させる場合、その関係はときに不安定で、今回のように本人から発言があれば、作品の見られ方は一気に変わってしまう。それでも『ダンダダン』は、このリスクを恐れず、オマージュを物語に自然に溶け込ませ続けている。

 『ダンダダン』は、ある世代には懐かしく、別の世代には新鮮に映るモチーフを並べることで、幅広い観客を同じ舞台に引き込む。元ネタを知っている人はさらに深く楽しめ、知らない人でも物語として十分に面白い。この“どちらでも楽しめる”仕組みこそ、多様な観客を惹きつける強みになっている。

 この先どう展開していくのかは、元ネタとなった側の反応や権利の扱いも含め、作品と現実がどう向き合うか次第だろう。ただ確かなのは、『ダンダダン』におけるオマージュが単なる小ネタではなく、キャラクターの感情や物語世界を動かす大事なエンジンになっているということだ。

参照
※ https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1727743735

■放送・配信情報
TVアニメ『ダンダダン』
第1期:各配信サイトにて全話順次配信中
第2期:MBS/TBS系スーパーアニメイズム TURBO枠にて、毎週木曜0:26〜全国同時放送
キャスト:若山詩音(モモ/綾瀬桃)、花江夏樹(オカルン/高倉健)、水樹奈々(星子)、佐倉綾音(アイラ/白鳥愛羅)、石川界人(ジジ/円城寺仁)、田中真弓(ターボババア)、中井和哉(セルポ星人)、大友龍三郎(フラットウッズモンスター)、井上喜久子(アクロバティックさらさら)、関智一(ドーバーデーモン)、杉田智和(太郎)、平野文(花)、磯辺万沙子(鬼頭ナキ)、田村睦心(邪視)
原作:龍幸伸(集英社『少年ジャンプ+』連載)
監督:山代風我
シリーズ構成・脚本:瀬古浩司
音楽:牛尾憲輔
キャラクターデザイン:恩田尚之
宇宙人・妖怪デザイン:亀田祥倫
アニメーション制作:サイエンスSARU
第1期オープニングテーマ:Creepy Nuts「オトノケ」
第1期エンディングテーマ:ずっと真夜中でいいのに。「TAIDADA」
©龍幸伸/集英社・ダンダダン製作委員会
公式サイト:https://anime-dandadan.com/
公式X(旧Twitter):@anime_dandadan

 

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