原作小ネタから伏線まで 『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』ネタバレ全開解説

 こんにちは、杉山すぴ豊です。ここ最近のアメコミヒーロー映画まわりのニュースや気になった噂をセレクト、解説付きでお届けします!

 今回は、絶賛公開中の『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』(以下、『ファンタスティック4』)のトリビア解説です。

※以下、ネタバレ全開のため必ず映画の鑑賞後にお読みください。またこれらについてはマーベルからの公式ではなく筆者の考察に基づきます。

アース828、エクセルシオール号、タイムリーという看板の由来は?

 今回の『ファンタスティック4』は、通常のマーベル・シネマティック・ユ二バース(MCU)で描かれている世界(アース616、神聖時間軸)とは別世界が舞台となっています。マルチバース上でアース616とは、パラレルワールド的な関係にあるアース828です。この828というのは『ファンタスティック・フォー』のコミックの生みの親の一人であるジャック・カービーの誕生日にちなんだものです。コミックの『ファンタスティック・フォー』は、ストーリー:スタン・リー、画:ジャック・カービーのコンビによって生み出されました。またメンバーのロケットの名前がエクセルシオール号なのは、スタン・リーがファンとの対話でよく使っていた言葉で“向上せよ!”みたいな意味です。

 街中の看板にもこの2人にちなむものがあります。Timely Publications(タイムリー出版社)という看板がちらっと映ったりしますが、これはマーベル・コミックの前身がタイムリー・コミックスだったことに由来します(一瞬だったのでTimely ComicsではなくTimely Publicationsという看板だったと僕は記憶してますが)。また他にもベンが子どもの頃育ったYANCY(ヤンシー)ストリートを訪れるシーン。このストリートもコミックに出てきますが、映画の中でここに“Stanley's”(スタンレーズ)and“King's”(キングス)というお店が出てきます。前者はスタン・リーの本名、後者はジャック・カービーの仇名に由来するものです。なおヤンシー通りはマーベル・コミックの中の通りでしたが、最近ニューヨークのデランシー通りがジャック・カービーに敬意を表し、ヤンシー ストリート/ジャックカービーウェイに改名されたそうです。

なぜ1960年代のレトロフューチャー?

 『ファンタスティック4』の舞台であるアース828がなぜ1960年代風のレトロフューチャーな世界観かというと、『ファンタスティック・フォー』のコミックが1961年刊行だからです。映画の製作者たちは、初期の『ファンタスティック・フォー』のコミックの雰囲気を映画に持ち込みたく、この60年代にこだわったそうです。

 これはサム・ライミがトビー・マグワイア主演でスパイダーマンの映画を作る際、幾多のコミック原作がある中、初期のコミックのテイストにこだわったという姿勢を参考にしたそうです。

 また、全体的な美術においてはジャック・カービーのアートとスタンリー・キューブリックの映画(『2001年宇宙の旅』でしょうね)のセンスを意識したと。さらに、映画製作陣によれば、60年代前半は社会に楽観的な雰囲気があり、それも取り入れたかったようです。

スーパーマンへの対抗心?

 劇中、ベンが子どもたちにせがまれ、車を持ち上げますよね。この車がなんとなく、1938年刊行の『アクション・コミックス』1号の表紙に出てくる車に似ている気がしました。この『アクション・コミックス』1号はあのスーパーマンがコミック界にデビューした記念すべき号であり、スーパーマンが車を持ち上げているのです。

 『ファンタスティック4』と『スーパーマン』がほぼ同時期公開だから意識したのかな? 一方、映画『スーパーマン』では、スーパーマンに仕えるロボットの4号がかなり目立ちますが、この4号、胸に大きく④のマークがあり、こっちはこっちで『ファンタスティック4』へのエールかもしれませんね。

 DCはスーパーマンからブレイクし、マーベルはファンタスティック・フォーから快進撃が始まります。つまりこの2つのヒーローコミックはそれぞれのコミック出版社にとってエポックメイキング的役割を果たしたという共通点があります。出版社の枠を超えてファンタスティック・フォーとスーパーマンが共演する話では、確かギャラクタスがスーパーマンの故郷惑星クリプトン崩壊の原因だった、という設定だったと思います。

表紙の怪物、猿のヴィラン、モールマン、そしてシルバーサーファー

 『ファンタスティック4』のメインヴィランはギャラクタスであり、その他のヴィランとの戦いは過去を振り返るシーンにてセリフで説明されます。その中に、地中から現れたと思われる巨大な怪物がファンタスティック4のメンバーと戦うシーンが出てきますが、これは1961年の『ファンタスティック・フォー』1号の表紙を再現したもの。この巨大な怪物はギガントと呼ばれ、ファンタスティック4の宿敵モールマンが操っています。この映画の後半は地下に拠点を置くモールマンが、スー(ヴァネッサ・カービー)の仲介で人々を助ける側に回りますよね。

 また、リード(ペドロ・パスカル)が、猿の怪人と戦っているシーンが出てきます。これはコミックでレッド・ゴーストというヴィランが生み出したスーパーエイプ。このレッド・ゴーストをジョン・マルコヴィッチが演じる(演じている)はずでしたが、最終的に映画からはカットされたようです。そのほか、マッド・シンカーなる者の脅威やパペットマスター、ウィザード、ディアブロの名が出てきますが、これらはみな、コミックの『ファンタスティック・フォー』に登場する有名ヴィランです。

 さて、シルバーサーファーですが、これもコミックでは何バージョンかあります。筆者にとって一番ピンとくるのはノリン・ラッドという男性版のシルバーサーファーですが、今回はシャラ・バルという女性のサーファーです。

 ちなみにシルバーサーファー自体も人気で、後にノリン・ラッド版を主人公にしたコミックシリーズも刊行されます。リチャード・ギア出演の『ブレスレス』やデンゼル・ワシントンの『クリムゾン・タイド』にもシルバーサーファーについての言及があります。

4人の力はエレメンタルズ?

 ファンタスティック4のスーパーパワーは、リードの伸縮自在の身体は水、スーの透明フォース・フィールドは風、ベン(エボン・モス=バクラック)の怪力は大地、ジョニー(ジョセフ・クイン)の発火は炎をそれぞれイメージしているとの指摘があります。

 なお今回、リードの伸縮自在のアクションは意外と控えめで、むしろリードの本当のパワーは、その天才的頭脳のように描かれていると感じました。これはやっぱり、伸びる身体というのが実写だとどうしてもギャグっぽくなってしまうから避けたのかもしれません。

フューチャー財団(ファウンデーション)とラトヴェリア

 劇中、スーが立ち上げた“フューチャー財団(ファウンデーション)”というのが出てきます。ファンタスティック4もFantastic FourでFF、フューチャー・ファウンデーションもFuture FoundationでFF。

 映画では世界平和のための団体という感じですが、コミックではある事件がきっかけでファンタスティック4が改名したヒーローチームっぽい側面があります。

 なお、映画の中でフューチャー財団(ファウンデーション)のリーダーであるスーが主催する国際会議(国連会議みたいな感じ)で、ラトヴェリアという国が欠席していることがわかるシーンがありますよね。このラトヴェリアの統治者こそドクター・ドゥームなのです!

ベンが心を通わせるあの教師は?

 劇中、ベンが地域のコミュニティで働く女性教師レイチェル・ロズマン(ナターシャ・リオン)という人物と出会います。ベンがちょっと心惹かれる感じですよね。

 実はこのキャラは映画オリジナルですが、コミックには彼女とよく似た設定のデボラ・クイーンという女教師が出てくるので、これが元ネタでしょうか?

 この役を演じているナターシャ・リオンは『ブレイド3』、『ホワット・イフ…?』(シーズン3)、『DC がんばれ!スーパーペット』(亀のマートン役)と、結構アメコミ系の作品と縁があります。

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