『事故物件ゾク 恐い間取り』がうったえる“優しさ”の重要性 本人役で登場するタレントの意味
「事故物件住みます芸人」として、“心理的瑕疵”のある賃貸物件に住み続け、さまざまな仕事に活かしている、松原タニシ。その“体験”をベースにしたという映画『事故物件 恐い間取り』(2020年)は、監督をホラー界の旗手・中田秀夫が務め、松原をイメージしたと見られる主人公を亀梨和也が演じ、邦画ホラーとして大きなヒットを成し遂げた。その続編として公開されたのが、中田監督が続投する『事故物件ゾク 恐い間取り』である。
主演がアイドルグループ「Snow Man」の渡辺翔太に交代し、ホラー映画初の試みとして、「恐さゾクゾク度」5段階の上映が行われるなど、カレーのような扱いともなっている本作『事故物件ゾク 恐い間取り』だが、その内容の一部について、疑問に思う観客も少なくないと想像する。ここでは、そんな謎の追及も含めて、何が描かれていたのかを深く考察していきたい。
※本記事では、『事故物件ゾク 恐い間取り』のストーリーの重要部分を明かしています
本作の特徴は、渡辺翔太演じる主人公が前作とは異なり、松原タニシの境遇とはやや異なるキャラクターであるということ。お笑い芸人ではなくタレント志望の主人公・桑田ヤヒロは、一念発起して地元を旅立ち、吉田鋼太郎演じるさびれた芸能事務所の経営者のもとで、「事故物件住みますタレント」として活動を開始する。
いわくつきの物件を辿り、怪異に立ち会い、花鈴(畑芽育)という、ともに芸能界での成功を目指す素敵な仲間にも恵まれたヤヒロは、やみくもに“売れたい”という欲望から、人の痛みを引き受けることの葛藤をおぼえ、他者の“思念”との共存という問題へと突き当たる。この変化は、松原タニシ自身が辿った精神的な境地にも重なるところがあるようだ。
事故物件だと知って住むのは、誰しも気分が良くない。しかし、ただただ恐い……という当初の感情は、時間とともに慣れていくものだ。松原の近年のインタビューでは、恐い体験をおどろおどろしく語るのではなく、他者の死に接近することで得る精神的な境地や思考などの方に、興味が移っているようである。
複数の事故物件に住んでいくヤヒロの姿を追い、お約束のような恐怖演出が続きながら、本作は次第に主人公が怪異というよりも死者との心の繋がりの方に感性がシフトしていくように描いている。もともとヤヒロは共感する能力が高く、優しい性格。だからこそ、彼のところには霊が集まるのだと、劇中で説明されている。
同時にそれは、いわば現代の典型的な若者像でもあるのではないか。繊細で、感受性が強く、他人の痛みに対して無自覚に巻き込まれがちなパーソナリティ。そんな若者のナイーブさは魅力でもあり、下手に共感するぶん、ある意味で無責任なところもあるといえるかもしれない。また、相手の痛みに敏感であるがゆえに、呪いに巻き込まれ翻弄されるという構図は、SNS時代における“共感への疲労”という問題にも繋がるところがある。
中田秀夫監督は、『リング』シリーズをはじめとする「Jホラー」の第一人者、という肩書きで語られることが多い。だが実際には、ひたすらな恐怖演出というよりは、情感を重視する作風を持っている。本人が度々述べているとおり、「メロドラマ」を撮りたいという志向が強いのだ。現代に続くモダンホラーの基礎を作り上げながらも、彼が描く幽霊や怪異には、意外に伝統的な“因果”や、そこから生まれる感情の揺らぎをめぐるものが多いといえる。その意味で本作は前作以上に、そんな中田監督の作家性に寄り添うものとなっている。
本作に登場する幽霊たちもまた、そうした“感情の残留物”として描かれている。女性の激しい嫉妬、悲痛な事情に苦しめられる母親の葛藤、飛び降り自殺した老婆などなど、いずれの霊も、生前に断ち切れなかった感情が、部屋に染み付いたままとなっている。