『しあわせな結婚』ネルラは“萌え”の塊だ　松たか子が三次元で体現した“クーデレ”ヒロイン

　松たか子は、過剰な演技は絶対にしない。彼女はどちらかというと、“静”の芝居の人だと思う。しかし、現在放送中のドラマ『しあわせな結婚』（テレビ朝日系）で演じるネルラが、第1話でクロワッサンに一心不乱にかぶりついたシーン。あの「やりすぎ」とも言える豪快な食べっぷりからのはにかみ笑いは、昨今では言葉としてあまり使われなくなったが、いわゆるアニメキャラクター的な“萌え”を感じさせられた。

　本作は、大石静がNHK大河ドラマ『光る君へ』（2024年）ぶりに連続ドラマの脚本を手がける、夫婦の愛を問う“完全オリジナルホームドラマ”であり、令和の“マリッジ・サスペンス”。テレビにも出演する人気弁護士・原田幸太郎役の阿部サダヲと共にダブル主演を務める松は、感情を表に出さずほとんど笑顔も見せないミステリアスな高校の美術教師・鈴木ネルラ役を演じている。

　第1話にて、幸太郎の入院先の病院にて運命の出会いを果たした2人。偶然エレベーターで一緒に乗り合わせただけだというのに、なぜかネルラから名刺と大金の入った紙袋を渡された幸太郎。後日、幸太郎の退院日に病院で待ち構えていたネルラは「来ました、お迎えに」と言い、大胆にも「うち行きませんか？」と誘うのだ。

　リアルでそんなことをされたら、ドン引きだ。だが、松たか子が演じると、妙にしっくり来てしまうのだ。

　つい最近、松が松村北斗（SixTONES）と夫婦役で共演した映画『ファーストキス 1ST KISS』でも同じような感覚を味わった。本作は、事故で夫を亡くした結婚15年目の女性が、15年前にタイムスリップして夫の死を防ごうと奔走する物語。これまでにも多数の“ループもの”と呼ばれる作品が作られてきたが、本作におけるタイムスリップは「やや強引」と言える設定であった。そんなタイムスリップが本作の要点ではないと示してくれたのが、松の演技だった。

　そして、冒頭にも挙げた『しあわせな結婚』でのクロワッサンを食べるシーン。ボロボロとこぼれるパンくずを気にせず真ん中からガブッとかぶりつくネルラの食べ方は、SNS上で大きな話題に。その食べっぷりに唖然とするも「散らかして食べてこそクロワッサンですから、よろしいんじゃないでしょうか」という幸太郎に、はにかみで返すネルラの表情が「かわいすぎる」「ずっと見ていられる」ともSNS上にコメントが寄せられていた。

　このシーン以外にも、家族揃っての食事中に、大好物のレンコンを頬張りながらいきなり「幸太郎さんも好きよ。レンコンより好き」と言い出し、父・弟・叔父たちを唖然とさせるようなことも。そんなネルラから“クーデレ”を感じ取った筆者。アニメやライトノベルなどのキャラクターにたびたび見られる“それ”は、一見クールで近寄りがたいものの、打ち解けていくうちに好意的な態度、いわゆる「デレデレした態度」をとるタイプのことを指す。世間一般にも広まった「ツンデレ」ほどメジャーではないものの、一定のファン層を抱える“萌え属性”である。

　「三次元」では不自然な表現を、リアルに落とし込んでも自然なものへとしてしまう。さらに、コミカルな役でも品が漂い、過剰になりすぎず、コメディセンスさえも伺える演技。こういったシーンを成立させるのは、「松たか子」という俳優だから成せる技なのだろう。

　第2話からはサスペンス要素が強くなってきた『しあわせな結婚』だが、ネルラの一挙一動に注目したい。

■放送情報
木曜ドラマ『しあわせな結婚』
テレビ朝日系にて、毎週木曜21:00～21:54放送
出演：阿部サダヲ、松たか子、板垣李光人、段田安則、岡部たかし、玉置玲央、金田哲、馬場徹、辻凪子、堀内敬子、小松和重、杉野遥亮
脚本：大石静
監督：黒崎博、星野和成、楢木野礼
ゼネラルプロデューサー：中川慎子（テレビ朝日）
プロデューサー：田中真由子（テレビ朝日）、山形亮介（テレビ朝日）、森田美桜（AOI Pro.）、大古場栄一（AOI Pro.）
音楽：世武裕子
主題歌：Oasis「Don’t Look Back In Anger」（Sony Music Labels Inc.）
制作協力：AOI Pro.
制作著作：テレビ朝日
©テレビ朝日
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