渡辺謙の覚悟の眼差しに目頭が熱くなる 『べらぼう』意次と蔦重の“敵討ち”の成功を願って
唯一無二の友・平賀源内(安田顕)に続いて、愛息・意知の命までも奪われ、自らの死以上に耐え難い仕打ちを受けた意次。生気を失った表情から、その苦労が伺えた。ここまで心の整理をつけるのに、一体どれほどの思いを腹に収めたのだろうか。きっと焼けた鉄を飲み込むように辛く、苦しい決断だったに違いない。
それでも、腹を決めることができたのは、同じく息子の命を奪われた将軍・家治(眞島秀和)が先に苦渋の決断をしていたからだろう。「知恵」を守るために「血筋」はくれてやろう、と。同じ逆縁という苦しみを知って、改めて簡単にできる決断ではなかったはずだと家治の覚悟に感服したところもあったはず。
「かような卑劣な手で奪い取れるものなど何一つないと」
「目にものを見せてやりとうございます」
そう言葉を交わした家治と意次。2人が持つ人としての「強さ」、そして未来を見つめる「眼差し」がなければ、決してできない「敵討ち」の開始である。その後、治済と対面した意次が一瞬刀に手を掛けたときには、ドキッとした。だが、その手はすぐに意知の遺髪を忍ばせた胸に移動する。
「何も失ってはございませぬ。あやつはここにおりまする。もう二度と毒にも刃にも倒せぬものとなったのでございます。志という名のものに」
志はたとえ肉体を失っても生き続ける。いつか意次が倒れても、また誰かの中で。「もはや失いようがございません」と笑ったかと思いきや、すかさず治済の背後に回り鬼気迫る形相を浮かべた意次。その迫力に、さすがの治済も息を呑んだように見えた。
「お前がどんなふうに敵を討つのか。良ければそのうち聞かせてくれ」
そう綴られた意次からの手紙に、自分は何ができるのかと考えた蔦重。振り返ってみれば蔦重の才覚は、いつだって苦境のタイミングで花開いてきた。その最初のきっかけが意次の「(吉原のために)何か工夫をしてるのか?」という言葉だったことを思い出す。
ふと思い浮かんだのは、意知のそばで笑っていたであろう誰袖の顔だ。奪われたと思われた夢と笑顔を取り戻すこと。呪いを断ち切る、笑いを生み出すこと。それが蔦重のできる「敵討ち」。ぜひとも次回は、誰袖を、そして私たち視聴者も大いに笑わせてほしい。その笑いが、令和の世をも明るく照らしてくれると願って。
■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK