『あんぱん』上司役に『プリキュア』犬役も 津田健次郎、2つの“朝”の顔として存在感

 また、このキャスティング自体に、少しだけ遊び心が感じられるのも面白い。『キミとアイドルプリキュア♪』には、主人公・咲良うたの父親である咲良和というキャラクターが登場するのだが、そのビジュアルがどこか津田健次郎本人に似ていると、放送直後からSNSを中心に話題を呼んだ。きっちりと整えられた髭、長めの前髪を流したヘアスタイル、スラリとした体格が津田の実在のイメージと絶妙に重なっていたのである。あえて見た目そっくりの父ではなく、主人公の飼い犬の声を津田が担当するという構図には、パブリックイメージを逆手に取ったちょっとしたジョークのような軽やかさがある。クールで知的なイメージが定着している津田が、まっすぐな「ワン!」や甘えた「クーン」で場面を彩ること自体が、どこか愛らしく、親しみを感じさせる。彼が持つ表現者としての柔軟さと遊び心が、こうした仕掛けの中でも自然に発揮されているのだろう。

 ここ数年の津田は、声優として確固たる地位を築きながらも、あえてその枠にとどまらず、実写ドラマや映画、さらには舞台やナレーション、CMなど、あらゆる領域で活躍の場を広げてきた。もちろん、そうした柔軟な演技の背景には、声優という仕事に真摯に向き合い続けてきた長い時間がある。デビューから数年は、生活も安定せず、アルバイトと両立しながら地道に声を磨いてきたという。ブレイクのきっかけの一つといえば『テニスの王子様』乾貞治役だが、その後も歩みを止めることなく、努力を重ねてきた。“挑戦をやめない”真摯な姿勢が、役に深みを与えているのだと思う。

 津田健次郎の演技には、派手な仕掛けはない。けれど、その声や立ち姿、そしてどこか飄々としたユーモアの奥に、確かな体温が宿っている。『あんぱん』と『プリキュア』という全く異なる世界で、それぞれに必要とされる理由も、きっとそこにあるのだろう。

 「渋い」「かっこいい」「イケボ」。そういった言葉で語られることの多い彼だが、その奥にはもっと静かで、深くて、どこか優しいものがある。どんな役を演じていても、そこに滲む誠実さや繊細さが、見る人の心を引き寄せてやまない。これから先、彼がどんな姿を見せてくれるのか。その“振れ幅”の広さに、今後も静かに期待を寄せていきたい。彼は、どこにでもいるようで、どこにもいない。そんな俳優なのだから。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、志田彩良、二宮和也、瀧内公美、山寺宏一、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、阿部サダヲ、妻夫木聡、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK

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