向井理、『舟を編む』は納得のキャスティング “善人”と“悪人”を演じ分けられる幅広さ

 さて、ここまで読んで「あれ?」と思った方もいるだろう。そう、向井は『ゲゲゲの鬼太郎』で知られる漫画家・水木しげるの妻・武良布枝の自伝が原案となったNHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』(2010年度前期)で、水木しげる役を演じているのだ。時を経て、異なる作中で、向井と水木しげるが再びリンクするとは、朝ドラファンとしてかなり胸熱な展開であったことはいうまでもない。

 朝ドラで一躍注目を集めた向井は、以降ドラマや映画、舞台などで幅広く活躍。近年の主演作には警察官と詐欺師2つの顔を持つ主人公・多家良啓介を演じた『ダブルチート 偽りの警官 Season1』(2024年/テレビ東京系)や、中国・三国時代の天才軍師・孔明こと諸葛亮が現代の渋谷に転生する奇想天外なストーリーの『パリピ孔明』(2023年/TBS系)などがある。

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 一方で、向井は物語のキーパーソン役としても強い印象を残している。例えば『ライオンの隠れ家』(2024年/TBS系)は、柳楽優弥演じる市役所で働く真面目な青年・小森洸人と、坂東龍汰演じる自閉スペクトラム症の美路人の兄弟が、“ライオン”と名乗る謎の男の子との出会いをきっかけに、ある事件に巻き込まれていくヒューマンサスペンス。温かなストーリーの中に散りばめられたスリリングでミステリアスな展開が話題となった作品だ。同作のサスペンス部分を引率した人物こそ、向井なのだ。ライオンこと息子・愁人(佐藤大空)や妻・愛生(尾野真千子)を暴力で支配し、それがある種の愛情だと思っている橘祥吾を演じ、その演技は、強く印象に残っている。

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 また、『着飾る恋には理由があって』(2021年/TBS系)では、主人公・真柴くるみ(川口春奈)が恋心を抱く葉山祥吾役に。肩肘張らないスマートな立ち振る舞いに、さりげない気遣いができる大人な男性で、物語終盤にくるみへの思いに気づき、スーツ姿で走り出す必死さには思わずキュンとする。誠実な人柄をとても丁寧に演じ、恋愛のもどかしさを描いたストーリー展開に一役かった。

 ドラマ『舟を編む』もそろそろ中盤に差し掛かる。善人も悪人も演じ分けできる向井の西岡役は、原作ファンも納得のキャスティングと言えるだろう。いざという時に機転の利く西岡は、変わり者の多い辞書編集部にとって欠かせない存在であり、物語を思わぬ方向に導いてくれるのではないかとつい期待してしまう。「水木しげる」の語釈を大胆でありながらサラッと解決してくれたように、今後も同編集部を支える助っ人・西岡の登場が待ち遠しい。

■放送情報
ドラマ10『舟を編む ~私、辞書つくります~』(全10回)
NHK総合にて、毎週火曜22:00~22:45放送
(毎週木曜24:35〜25:20再放送)
出演:池田エライザ、野田洋次郎、矢本悠馬、美村里江、渡辺真起子、前田旺志郎、岩松了、向井理、柴田恭兵ほか
原作:三浦しをん『舟を編む』
脚本:蛭田直美(全話)、塩塚夢(第5話共同執筆)
音楽:Face 2 fake
演出:塚本連平、麻生学、安食大輔
制作統括:高明希(AX-ON)、遠藤理史(NHK)、訓覇圭(NHKエンタープライズ)
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.jp/p/funewoamu/ts/GZ8RQ7PNJ1/

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