『イカゲーム』シーズン3は多数決主義にメスを入れる デスゲームが映し出す現代社会の闇

 世界中で社会現象を巻き起こしたサバイバル・スリラーが、ついに完結。6月27日にNetflixオリジナルシリーズ『イカゲーム』シーズン3が配信され、人気シリーズにひとまずの区切りがつけられた。

 初動3日間の視聴回数は6000万回を超え、『イカゲーム』シリーズ内で過去最高を更新。世界93カ国で「今日の総合TOP1」を獲得。4年前の2021年9月17日に配信スタートしたシーズン1も、28日間で1億4200万を超える世帯が視聴する大ヒットを記録しているが、最終章もそれに並ぶ勢いだ。

 登場人物たちが命がけの危険なゲームに強制的に参加させられ、生き残りをかけて戦う……そんな“デスゲーム”ものは、高見広春の小説『バトル・ロワイアル』をきっかけにして一気に人気爆発。以来、日本では『カイジ』や『今際の国のアリス』、海外では『ソウ』や『ハンガー・ゲーム』といったヒットシリーズが次々と生まれ、今やエンターテインメント界で確固たる地位を築いている。

 初期の頃は、理不尽すぎる状況でのサバイバルに焦点が当てられることが多かったが、時代を経るにつれて社会批判や倫理的な問いかけといった要素が加わり、人間の本質や社会の闇を炙り出すようになっていく。間違いなく、その代表格が『イカゲーム』。世界共通のテーマを描いているからこそ、これほどのワールドワイドなメガヒットに繋がったのだろう。

 『イカゲーム』が資本主義社会についての寓話であることは、シーズン1の配信当初から指摘されてきた。監督・脚本を務めるファン・ドンヒョク自身、「人々を厳しい競争の中に置く、現代の資本主義社会に疑問を投げかけるために制作した」(※1)と明言している。この作品で描かれているのは、世界の現実そのものなのだ。

 主人公のソン・ギフン(イ・ジョンジェ)は、ギャンブル中毒で借金まみれ、高利貸しに追われる毎日の典型的負け組。そんな彼が、一発逆転を夢見てイカゲームに参加する。だるまさんが転んだ、カタヌキ、綱引き、ビー玉遊び、飛び石ゲーム……。失敗すれば、あっという間にあの世行き。動物をモチーフにしたマスクを被ったセレブたちが、落ちこぼれの殺し合いを高みから見物する様子は、資本主義社会における「勝ち組」と「負け組」の構図を、分かりやすいくらいにビジュアライズしている。

 ここで注目すべきは、一定の区切りで設けられる投票によって、参加者自身がゲームを続けるか、それとも離脱するかを選べること。一見すると自由意志があるかのような錯覚を覚えるが、現実は違う。多額の借金に苦しみ、明日の生活さえままならない彼らにとって、すでにリアル社会では経済的な“死”が宣告されている。つまり、ゲームで生き残る以外に、彼らに実質的な選択肢など存在しないのだ。

 『イカゲーム』シーズン2のラストで、運営スタッフ(搾取する側)にプレイヤーたち(搾取される側)が反乱を起こすものの、圧倒的な武力差で制圧されてしまう場面は、「資本主義社会において、虐げられる人々の革命は容易に成功しない」という現実を示唆している。そして今回のシーズン3では、資本主義社会のみならず、民主主義を騙った多数決主義にも踏み込んだストーリーが展開していく。

「俺たちは馬じゃない。人間だ」

※以下、『イカゲーム』シーズン3のネタバレがありますので、ご注意ください。

 シーズン3の最終ゲームは、生き残った9人のうち最低3人の脱落者を出さなければならない、非情な「天空イカゲーム」。プレイヤーは、四角、三角、丸の各ステージを突破するために、必ず1人以上を蹴落す必要がある。

 しかし、裏ではすでに恐るべき談合が成立していた。6人が密かに結託し、ソン・ギフンと、すでに命を落としたキム・ジュニ(チョ・ユリ)の赤ん坊をターゲットに定めていたのだ。彼らは「多数決という民主的な手続きにより、あなたが選ばれました。だから死んでください」という理屈で相手を追い詰める。確かに、多数決は民主主義の大きな機能のひとつだ。だが、これは本当に正しいプロセスなのだろうか。んな訳ない。ここには欺瞞がある。大きな落とし穴がある。

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